この日、東京は快晴。午前11時45分、霞ヶ関の東京地裁の正門前に支援する仲間が集まり、医療大麻裁判のことを訴えるビラを配りました。昼休み前で、多くの人々がビラを手にして読む光景が見られました。
この日は性教育を巡る裁判の判決があり、教諭や保護者の人たちのビラ撒きが隣で行われていました。その教育・福祉関係者たちにもビラを渡しましたが、ごく自然に医療大麻裁判の問題を受けとめているようでした。
公判は、午後1時半から5階の528号法廷。56席の傍聴席のほぼ半分が傍聴者で埋まりました。法廷に入って、弁護士さんの席の後ろの壁に大きな画像パネルがあるのが目につきました。以前はなかった設備で裁判のシステムが変わってきているのを感じました。
成田さんは、グレーの背広姿、黒いネクタイを締めて法廷に立ちました。横には、2名の弁護士さんが席についています。
裁判は最初に被告人質問からはじまり、裁判官が成田さんに、名前、生年月日、本籍などを尋ねました。
次に検察側から公訴事実の読み上げ。概要として、被告(成田さん)がみだりに、2008年11月18日、東京駅で大麻樹脂状固形物3.082グラム、LSD固形物0.341グラムを所持していた。大麻取締法と麻薬及び向精神薬取締法の違反というものです。
二人の検察官のうち、女性の検察官が、ビニールの袋に入った黒っぽい塊を手にして、成田さんに近づき、これはあなたのものですか? と質問しました。所持していた大麻樹脂状固形物のことです。成田さんは認めましたが、検察官は続けて、これを放棄しますね?と強要するような口調で質問をしました。
この質問は、裁判で大麻を治療のために持っていたと訴えている被告にとっては、理屈に合わないことで、成田さんは、納得いかない様子で、検察官の望んでいるような答えにはなりません。検察官は、予想外の状況に、少し焦り気味に、放棄しますか?と質問を繰り返します。この場面は、筋書き通りにいかない、ちょっとしたハプニングでした。
見かねた裁判官が、じゃあ、(検察官の)質問はなかったことにしましよう、とその場を収めました。このあたりの駆け引きは、些細なことでしたが、検察側の一方的なやり方が、通らなかったという印象がありました。
そして、裁判官から成田さんに、検察の公訴事実を認めるかという質問があり、成田さんは、大麻を所持していたことは認めるが、持病のクローン病の治療のために所持していたので「みだりに」ではないこと。また、LSDについては所持も、それをみだりに持っていたことも認めますという返答がありました。
次に検察側から起訴状の朗読(後日、原文が公開できる予定。控訴事実を具体的に示したもので、上記の控訴事実と同様の内容です)。続いて法廷に提出された証拠物の説明がありました。その中には、被告が医療大麻について述べている調書なども含まれていました(このことは、被告が取り調べ段階から一貫して、病気の治療のために医療目的として大麻を所持していたことを示しています)。
そしていよいよ弁護側からの冒頭陳述です。冒頭陳述とは、弁護側がこの裁判に対してどのような姿勢で臨むのか、その基本方針を述べるものです(後日、原文が公開できる予定)。
その内容は、おおよそ以下のような論旨です。大麻の所持について、外形的事実(逮捕されたとき、大麻を持っていたという具体的事実)は認めるが、それはクローン病の病状を緩和するため、治療用に用いていたものであるから無罪であると主張しました。それは次のように要約されます。
○大麻取締法第24条2、第1項が適用される限り、(適用違憲であるので)無罪である(参考-----大麻取締法第24条2 第1項「大麻を、みだりに、所持、譲り受け又は譲り渡した者は、5年以下の懲役に処する。」)。被告の大麻所持は、治療目的であり「みだり」ではないので大麻取締法の適用は過っている訴えています。
○刑法的に正当行為であること。科罰的違法性を欠いている。これは、冒頭陳述の後半で述べられていますが、被告の大麻所持は、自らの健康を追い求める行為であって、それを法律で罰することはできないという訴えです。
続いて、クローン病について、現在の医学では原因が不明であり、治療法が確立していないことが指摘されました。そしてクローン病の患者である被告が、毎日20錠もの薬を飲み続けなければならないこと、ステロイド剤の副作用に悩ませれていることなどが指摘されました。また、海外では1980年代から医療的な目的で大麻が使われるょうになってきていること、クローン病の治療に大麻が有効であることなどが指摘されました。
被告は平成17年にクローン病と診断され、それ以降、闘病生活を続けています。その中で、ステロイド剤を大量に使用せざるをえないという問題を抱えている。近年、医学界では、患者の権利を重視する治療が唱えられているが、それは患者が自ら良質な治療を選べること、治療について自己決定ができること、治療の情報を得られることなどである。そういった観点から見て、被告が大麻を所持していたのは、自らクローン病と闘う手段として用いてきた、つまり自らの健康を追い求める行為であって、それを法律で罰することはできないと訴えました。このような理由から被告は大麻の所持に関して無罪であると述べました。
裁判官から検察側に冒頭陳述に対して意見があるか求められましたが、検察は、弁護側の立証を裏付ける証拠がまだ提出されてないので、何も反論できないと述べるにとどまりました(冒頭陳述は、それを裏付ける証拠を法廷に提出しなければ、客観性があるとは認められない一見解、一方的な意見としか見なされません。今後、弁護側から客観的な証拠物(=資料)を添えて、被告がクローン病を患っていること、クローン病の治療に大麻が有効なこと、クローン病の治療に大麻を認めている国や(アメリカの)州があること、などを立証していくことになります)。
弁護側からは、現在、クローン病と大麻について海外の文献をあたっていること、証人についてもあたっていると述べられました。検察側は、まず被告のクローン病の診断書、カルテなどを出して欲しいと述べました。
その後、15分ほど休廷になり、2時半に再会され、次回公判は4月16日(木)午後1時半から同じ528号法廷で行われることになりました。
■裁判終了後、成田さん、弁護士さんと支援者を交えた簡単な話し合いがありました。この裁判、出だしとしては健闘したという評価がありました。裁判官も被告・弁護側の主張を聞く姿勢が見受けられたような印象を受けました。被告に対する言葉遣いや態度なども、以前のような、上から裁くといった雰囲気が薄らいできたようにも感じました。司法の視線が市民の目線に近づくように変わってきているのでしょうか。
今後、医療大麻裁判としてがんばっていきたいということで、一同、前向きな気持ちでこの日の裁判を終えました。
現在、カンナビストは成田さんの医療大麻裁判を支援する会を全面的に協力して、裁判を支援しています。裁判の今後に、大きな影響を与える資料類(クローン病と大麻の治療)の証拠収集、翻訳などプロジェクトチームが作られ、動きだしています。社会的にこの医療大麻裁判を訴える広報活動も行っています。
ご覧になっている方々の中で、何か応援、協力しようと思われた方は、ぜひご連絡ください。
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