桂川さん裁判の現状
一審判決及び控訴審向けた裁判支援について


桂川さん裁判の現状
──一審判決及び控訴審向けた裁判支援について──

2004年8月22日
2004年9月2日(一部改訂)
カンナビスト運営委員会

はじめに

 昨年7月14日に大麻取締法違反容疑で逮捕された長野県在住の桂川直文さんは、その後、大麻取締法、麻薬及び向精神薬取締法、覚せい剤取締法などで起訴されました。その内訳は、(1)Sさんへの大麻(と大麻樹脂)の営利目的の譲渡(大麻約20g/大麻樹脂約3.29g)、(2)大麻(と大麻樹脂)の営利目的の所持(大麻約3560.196g/大麻樹脂約33.744g)、(3)大麻の営利目的の栽培(大麻草94本)、(4-1)覚せい剤(0.192g)の所持、(4-2)麻薬(MDMA/0.217g、通称マジックマッシュルーム/1.138g)の所持、(5)Nさんへの大麻の営利目的の譲渡(大麻約30g)というものです。

 9月26日に大阪地裁で初公判が行われ、6回の公判の後、今年4月14日に判決がありました。検察側からの求刑7年に対し、一審判決は懲役5年、罰金150万円というものでした(判決文参照)。桂川さんは一審の判決を不服として、大阪高裁に上告しました。
  桂川さんは、以前から大麻の自由化を主張してきた人物として知られていました。1998年から2000年までは大麻取扱者免許も取得していました。大麻に関する書籍や雑誌記事などを執筆したり、ホームページで持論を展開してきたことからご存知の方も多いかと思います。

 カンナビストは、当初から桂川さんの救援活動を行ってきました。2004年2月以降は、桂川さんの地元の友人・知人によって結成された「桂川さんの真実を伝える安曇野勝手連(以下、安曇野勝手連とする)」が裁判の支援活動の中心を担うことになり、「安曇野勝手連」と共に支援活動を続けました。


(一) 裁判の経過について

 桂川さんは、昨年7月の逮捕から今年の2月の保釈までの大部分を接見禁止のまま独居房に勾留されました。家族や友人による接見も手紙のやりとりもできない状態に一人で置かれたまま5ヶ月あまりも取り調べを受けました。弁護人から裁判所に対し、度々、保釈請求がなされましたが、検察側からの働きかけにより却下され続け、2月23日の第5回公判の後、やっと保釈されました(しかし4月14日の一審判決後は再び大阪拘置所に勾留されています)。

 大麻以外に押収された薬物の量は、極めて少量でした。また大麻関係の起訴4件についてみな営利目的が付けられていますが、それは社会的通念で言うところの販売、あるいは利益を目的としたものではありませんでした。
  桂川さんに対して、長期にわたり外部と遮断したまま取り調べを行い、起訴、追起訴、追追起訴を行った近畿麻薬取締部及び大阪検察は、当初から桂川さんに対して「営利目的」を付けた併合罪を適用し重刑を科す方針でいたように思われます。
  取り調べ期間の後半になると、独居房に迎えに来る刑務官も、あまりにも長期にわたる調べに呆れていたという話しまであります。桂川さんに対する取り調べは、憲法第38条1項(「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」)及び2項(「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。」)に違反するものであります。

 当局による重刑方針の背景には、桂川さんに対して、いわゆる「大麻解放運動」(麻取りの調書)、あるいは「大麻の合法化運動」(検察の冒頭陳述)の首謀者という位置づけがあったと思われます。それは事実行為(大麻取締法、覚せい剤取締法、麻薬及び向精神薬取締法などの違反という事実行為)を摘発するという枠を越えて、治安維持的観点から桂川さんの活動(桂川さんは大麻解放運動=組織的犯罪の首謀者という位置づけ)、およびその背景にあると断定した思想(桂川さんは法秩序の否定を主張しているという位置づけ)に対して弾圧を行ったともいえます。
  しかし、当局の思い描いていた桂川さんの活動、及び思想は、実像とはずれたものです。当局は、桂川さんについて予断と偏見に基づいた虚像を作り上げ、それに対して重刑をかけてきたという二重の錯誤があるのではないかと思われます。

 9月26日の初公判から年内の3回の公判は、検察による起訴、追起訴、追追起訴があり、事実上、審理に入れませんでした。
  2月4日の第4回公判では、桂川さんから大麻を譲渡されたとされているNさんが弁護側証人として出廷し、大麻は病気の治療目的で入手しようとしたことなどを証言しました。
  2月23日の第5回公判では、最初にカンナビストの麻生が弁護側証人として出廷し、桂川さんの活動と人柄について、そして大麻取り締まりは人権を侵害するものであり取り締まりを見直すよう証言しました。次に地元のMさんが弁護側証人として出廷し、桂川さんの人となり、家族の様子などを証言しました。
  その後、桂川さんの証言がありました。この中で2001年6月26日に前年まで取得していた大麻栽培者免許が与えられないという不許可処分が行われたのに対し、大麻取締法2条項に基づいて長野県知事に対し異議申し立てをしたと桂川さんは証言しました。弁護人が「これに対し県から何か回答はありましたか」と質問したところ、桂川さんは次のように証言しました。
  「私は何回か(回答を)催促しましたが、いつまでたっても回答がなく、自分で勝手に黙殺されたと解釈しました。私は地元では大麻の桂川で有名なのですが、駐在所や松本署に行っても誰もとがめないので大麻を作っていたのです」(証人尋問調書)
  そして桂川さんが子供のころ地元では「(大麻を栽培している農家が)たくさんいましたし、つい最近まで野生の大麻が山にたくさんあり、誰も麻なんか不思議に思ってはいませんでした」(同)という証言がありました。これらの証言は、桂川さん自身は大麻栽培(所持)について犯意、他意はなく、適法性のある栽培をしていたと思っていたことを明らかにしています。

 3月10日の第6回公判で、論告求刑と最終弁論がありました。法廷で弁護人は以下のような最終弁論を行いました。
  まず最初に大麻取締法の違憲性(大麻の歴史、日本国と大麻、大麻の有用性、大麻の危険性・有害性の検討、大麻の医療利用、大麻取締法の違憲性などの項目に沿って展開)を主張しました。
  次に情状として、桂川さんの家族の状況や本人はこれまでまじめに社会生活を営んできたこと。また「いわゆる『大麻解放運動』との関係等について」(弁論要旨)ふれ、「本件各控訴事実は、組織的な犯罪行為ではなく、全く被告人の自立的主体的判断に基づく行為である。各公訴事実について、予断を払拭して、虚心坦懐に証拠に基づき判断、評価されるべきである」(同)と述べました。

 起訴された各事実について、(1)の大麻の営利目的の譲渡の件については、渡したとされるS さんは、芸術活動のために使用したいと希望したものであるとともに、覚せい剤中毒の無毒化、依存からの離脱のために大麻を求めたこと。桂川さんからは対価を請求したことはなく、Sさんからの自発的な気持ちをもらったもので、商売としての自発性はなかったことを述べました。
  (2)と(3)の大麻の営利目的の所持と栽培の件については、桂川さんは大麻の合法的な栽培と大麻の有効性等の研究、作物としての品種改良などを指向し、栽培者免許を取得して栽培をしていたこと。2001年以降、免許不交付になった時期についても異議申し立てをしていたのが県に放置され、桂川さんは栽培や使用が容認・黙認されたものと勘違いして(犯意、他意はなく)栽培を継続していたという事情を考慮するよう訴えました。 事実、県の薬務課担当者らに対して桂川さんは大麻の自己使用を公言していたこと、公道の脇の遮蔽物のない場所で栽培を継続していたのに何の対応策も県はとらなかったことなどを指摘しました。
   (4-1)の覚せい剤(0.192g)の所持、(4-2)の麻薬(MDMA/0.217g、通称マジックマッシュルーム/1.138g)の所持の件については、他人が手みやげに置いていったものをそのまま放置し存在すら忘れていたものであること、各分量も微量であることを考慮するよう述べました。
  (5)の大麻の営利目的の譲渡の件については、桂川さんは大麻に関する文化論を懇談する目的で、Nさんの地元まで訪れたこと。そして対価を要求したことはなく、近づきの印としての手みやげであったことなどを述べました。Nさんは、大麻を医療目的で求めたこと。また桂川さんは大麻を癌や多発性硬化症、緑内障、不眠等の治療のために患者等から所望されれば分けたことがあり、治療ないし症状の緩和を感謝されたことは数限りないこと、それらは商売として行っていたものではないことを述べました。

 その他、桂川さんは過去の大麻取締法違反(栽培罪)を反省し、栽培者免許を取得したこと。それを除けば、およそ犯罪とは無縁の地元に根ざした真面目な社会生活を営んできた人物であることを述べました。そして、桂川さんなりに日本国においては大麻はなお厳に違法であることを理解し、反省していること。マスコミや地元ローカル紙での実名報道など十分すぎるほどの社会的制裁を受けていること。保釈後に地元の町ぐるみの減刑嘆願書が集めれたこと。被告が高齢の父親や家族にとってなくてはならない存在であることなどを述べました。


(二) 一審判決について

 4月14日の大阪地裁判決は「懲役5年及び罰金150万円に処する。未決勾留日数中140日を懲役刑に算入する。」というもの(判決文参照)。判決文では、「弁護人の主張に対する判断」として、次のような3点の見解を示しています。

 1番目に、大麻取締法の違憲性(憲法13条、25条及び31条)を訴えた弁護人に対し、「大麻取締法の立法事実である大麻の有害性ないしその使用による影響については、大麻には幻視・幻覚・幻聴・錯乱等の急性中毒症状や判断力・認識能力の低下等をもたらす精神薬理作用があり、個人差が大きいとしても、長期常用の場合だけでなく、比較的少量の使用でもそのような症状の発現があることが報告されており、有害性が否定できないことは公知の事実といえる。」と述べ、「上記のような大麻の有害性に鑑みると」大麻取締法は憲法13条、25条に違反するとはいえず、「その処罰規定は、懲役刑の下限の低さ等に照らし、過度に重い刑罰を定め罪刑の均衡を失するものとはいえないから、憲法31条に違反するものではない。」と結んでいます。

 この大麻取締法を合憲とする判決は、20年も前の最高裁判例を踏襲したもので、最近の主要な西欧先進国に於ける大麻の容認化という現実から目を背けています。弁護人から証拠として提出されていたドイツ連邦憲法裁判所が1994年、少量の大麻製品の非常習的な自己使用目的の行為については、訴追を免除すべきであると判示した決定などを無視する姿勢を取っていることからもそれは明らかです。
  1985年、当時の大麻事件裁判で、最高裁は、大麻の有害性を肯定して大麻取締法の違憲論を退けた二つの最高裁決定を下しました。この最高裁決定により、それまで裁判で争われてきた大麻の有害性に関する議論は、これで裁判実務上、決着をみたとされています。
  しかしながら1994年のドイツの連邦憲法裁判所による判示は、法学者からも「なお、わが国でも、大麻取締法の合憲性について、裁判でしばしば争われてきたところであるが、1985年に最高裁判所が大麻の有害性を肯定して以来、実務上はすでに決着がついたとみなされているようである。学説上もこの決定に対して正面から異を唱えるものは存在しない。連邦憲法裁判所の本決定は、この再検討を促すものであろう。」(工藤達郎/『ドイツの最新憲法判例』(信山社/大学図書))と評されているもので、この証拠資料を無視する大阪地裁の姿勢は不誠実なものであると言わざるを得ません。

 今年、厚生労働省に対して1990年代から2003年にかれてアメリカ、カナダ、スイス、オーストラリア、ベルギーなど海外の公的機関などが公表した大麻の安全性に関する研究報告書や非犯罪化の事例について代表的な16項目の情報を把握しているか質問する情報開示請求がなされました。それに対する返答によれば、厚労省はその16項目中、僅か1項目のみしか把握していないことが明らかになっています。把握しているという1項目にしても、2003年10月イギリス下院議会が大麻の法的分類をクラスBからクラスCに引き下げ、大麻の所持を「逮捕に値しない法律違反」とすることを承認し、2004年1月29日より施行開始したことについて「2002〜2003年海外情勢報告」という小冊子で一部分ふれているというだけでした。
  これが情報開示請求に基づいた質問に対する「連絡・報告・検討に関する一切の情報」だというのです。つまり行政当局は海外の大麻の有害性や安全性に関する最近の研究報告や非犯罪化の事例について連絡・報告・検討などしていなかったのです。この16項目は西欧先進国の議会や政府、公的研究機関などによる報告書や閣議決定などであり、詳細は多岐にわたるのですが、総評として大麻の有害性がそれほど高くはないこと、刑事罰から外すのが妥当であるという結論を出しています。
  司法が20年も前の最高裁判例を踏襲し続けている現状に、このような厚労省の職務怠慢が影響を与えていることの責任は大きいです。行政当局(厚労省)は、正確な大麻に関する情報を国会や国民に提供しておらず、憲法第15条2項(条文「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。」)に違反していることを指摘しておきます。裁判所は、大麻の有害性はそれほど高くはないという事実を直視し、大麻取締法を合憲とした過去の判例を見直すべきです。

 裁判所は「有害性が否定できないことは公知の事実」と述べていますが、結局、「公知の事実」という漠然とした表現を根拠にした「有害性」の指摘に基づき懲役刑の刑罰を下すというのは、不公正であり納得できないことです。「公知」とは、世間に広く知られていることといった意味です。当然ながら、世間に広く知られている事実であるということと、それが真実であるかどうかは必ずしも一致しません。大麻に関しては、これまで誤った偏見に満ちた情報が世間に流布されてきたという経緯もあり、仮に「公知の事実」であったとしても真実であるとはいえません。
  このような裁判所の姿勢は、公平な裁判を受ける権利を明記している憲法第37条1項(「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」に違反していると言わざるを得ません。

 弁護人は、大麻取締法は憲法13条(「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」)、及び憲法25条(「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」)に反するので違憲であると訴えました。
  それに対し裁判所は「大麻には幻視・幻覚・幻聴・錯乱等の急性中毒症状や判断力・認識能力の低下等をもたらす精神薬理作用があり、個人差が大きいとしても、長期常用の場合だけでなく、比較的少量の使用でもそのような症状の発現がある……上記のような大麻の有害性に鑑みると」(判決文)、憲法13条、25条に違反するとはいえないという判断を下しています。
  判決文で述べられている「薬理作用」の指摘は、曖昧で科学的客観性に欠けています。もともと日本国内では大麻の薬理作用に関して国際的なレベルの研究はなさなれていません。一方、前述のように海外の主要先進国に於ける信頼性のある研究では、大麻の有害性がそれほど高くはないこと、刑事罰から外すのが妥当であるという結論が提出されています。このような状況を鑑みると、大麻取締法が憲法13条、25条に反しないとした理由である「大麻の有害性」の認定は見直すべきであることが明らかです。
  ここで憲法13条の幸福追求権について「公共の福祉に反しない限り」という条件がついていることに関し、若干、ふれておきます。前述の情報開示請求の一環として、「日本国内で発生した、大麻摂取による精神錯乱が原因の二次犯罪に関する一切の情報。但し、薬物事犯、アルコールを含む他の薬物との併用による事例、余罪としての大麻所持等を除く」という質問が厚労省に出されました。それに対する返答は、開示請求に係わる行政文書を保有していないというものでした。つまり国内で大麻の薬理作用が原因で何らかの犯罪を起こしたケースはないことが明らかになりました。
  さらに大麻の摂取がより有害性の高い違法薬物への入り口になるという通称「踏み石理論」についても、1999年アメリカ科学アカデミーの付属機関である医学研究所(IOM)の研究などで否定されています。「公共の福祉に反しない限り」という条件については、以上のように二次犯罪の可能性、「踏み石理論」に基づく弊害の可能性など否定されていることからも、その条件を満たしていることは明らかです。

 また、憲法31条に基づく罪刑の均衡とは、刑罰は犯罪に均衡したものでなくてはならないという原則です。仮に百歩譲って、判決文のような「幻視・幻覚・幻聴・錯乱等の急性中毒症状や判断力・認識能力の低下等をもたらす精神薬理作用」を認めるとしても、そこで列挙されている症状は酒とほとんど変わらない程度の作用であり、手錠をはめ逮捕する刑事罰で取り締まらねばならないようなものではありません。つまり大麻取締法が罪刑の均衡の原則に反するので違憲であるという主張を否定する理由にはなっていません。
  「懲役刑の下限の低さ」を理由に罪刑の均衡を失するものでないという裁判所の判断は、刑事事件の容疑者として逮捕され数週間から数ヶ月にわたる勾留を強いられる現実から目を背けています。普通の社会人で、それだけの期間、勾留されることは多くの場合、失職してしまいます。その他、逮捕を新聞やテレビで報道されたことにより本人はもとより家族まで社会的制裁を受けること、有罪判決を受けると実刑でなくても執行猶予期間中いろいろな不都合を受けること、車の免許証照会で逮捕歴を理由に不快な扱いをされたこと、外国人で逮捕歴を理由に滞在許可に障害が生じたことなど、大麻取締法により多くの悲劇が起きています。このような理不尽な状況を生みだしている大麻取締法を「懲役刑の下限の低さ」で正当化することはできません。

 2番目に、桂川さんが大麻栽培免許を取得していた経緯もあり、逮捕時に於ける大麻栽培についても犯意がなく、違法性の意識が乏しかったと訴えた弁護人に対し、大阪地裁は、「従来は繊維を採取し名刺用の紙を作製することを目的として栽培免許を与えられていたが、経口及び喫煙摂取する目的で免許申請したところ、これを却下されたという経緯が明らかである以上、異議申立てや栽培の継続によって大麻栽培が黙認されるに至ったなどと被告人が考えたとは到底認められない」と述べています。

 桂川さんは、法廷で(5)の事案に関する証言の中で、検察側が示した譲渡したとされる大麻の量に異議をはさみ、もっと多量だったいう証言をしています。この証言が桂川さんの口から飛び出したとき、法定内は一瞬、静まり返りました。それは、被告が自分に不利になる証言をすることに対する戸惑いでした。しかし、桂川さんはそれが事実だから述べたのです。
  このように桂川さんは、自己に不利益になることを顧みず正直に事実を述べる人物であり、当時、本心から大麻栽培が黙認されたと考えていたのです。自宅の脇にあった大麻畑は、パトロールカーの巡回している公道に接しており、何の遮蔽物もありませんでした。つまり何年にもわたり丸見えの状態で大麻を栽培していたのです。このように桂川さんは臆するところなく、何も隠さずに大麻栽培を継続していたのですが、それは大麻栽培が黙認されていたと信じていたからこそできたのです。裁判所の「到底認められない」という推量は、そういう桂川さんの人柄や事実関係について見落としがあります。

 3番目に、桂川さんは大麻を譲渡した際、カンパとして金員を受け取ったことはあるが、商売としての営利性はなかったと訴えた弁護人に対し、大阪地裁は「症状の緩和等を理由とする譲渡があったことは認められるとしても、それは一部にすぎず、カンパという名目で1回5ないし10万円程度の代金を得て多数の相手方に譲渡を繰り返していた事実が優に認められる」と述べています。
  「事実が優に認められる」という曖昧な表現には具体性がなく、これは予断に基づいた判断です。桂川さんのことを知っている友人・知人の信頼できる話では、「代金を得て多数の相手方に譲渡を繰り返していた」ことなどなかったとのことです。

 判決文の「量刑理由」についてでは、前文で事件の概要を述べた後、「自宅や敷地内で合計94本もの大麻草を栽培したり3.5キログラム以上の多量の大麻を所持し、常連客らに大麻を有償譲渡して害悪を拡散したほか、ドラッグ研究家と称して、大麻だけでなく覚せい剤やMDMA等各種の違法薬物を所持していたものであり、薬物に対する結びつきの強さが顕著である。被告人は、大麻の使用者を増加させようと図り、大麻合法化運動を標榜しながら常習的に薬物犯罪を行っていたのであって、上記の前科やその後の行動に照らすと、薬物犯罪に対する規範意識が鈍麻していることが明らかで、厳しい非難を免れない。被告人の刑責は相当に重い。」と結ばれています。

 桂川さんは大麻を商売にしていたことはなかったから「常連客」などは存在していませんでした。そもそも「常連客」というような言葉を持ち出すところに裁判所の予断が示されています。「有償譲渡」があったとしてもそれは例外的事例でした。先ほど「事実が優に認められる」というような表現に裁判所の予断は示されていると指摘しましたが、判決は、検察の起訴した2件の例外的事例(Sさん、及びNさんへの大麻の「有償譲渡」)をもって、全体像も同様なものだと見なしてしまったという過誤を冒しています。大麻取締法違反の4件の起訴のうち、栽培と所持について営利目的がつけられているのは実状を歪めたものです。
  大麻は自宅敷地内で栽培されていたものであり、所持も家屋内にあったものです。それらの大麻が営利目的で栽培・所持されていたということを示す具体的な証拠はありませんでした。桂川さんを逮捕した近畿麻薬取締部は、事前に桂川さんの自宅や田畑の構図や不動産関係の契約などの内偵捜査をしていました。さらに逮捕後の5ヶ月あまりにわたる長期の取り調べや関連家宅捜査を行いながら、桂川さんが所持・栽培していた大麻と営利目的を結びつける具体的な証拠は何も出てきませんでした。もともと栽培も所持も営利を目的にしていなかったのですから当然のことです。
  また大麻の栽培本数(94本)や所持量(3.5キログラム強)という数字は、少量とは言いえないかもしれませんが、営利目的と決めつけるほどの量でもありません。

 この裁判に於いて、大麻の所持と栽培について「営利目的」がつけられた証拠は、結局、本人の供述(自白)だけであり、それに基づき刑罰を下すのは憲法第38条3項(「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。」)に違反しており無効であります。この供述については、外部の情報が遮断された状態に置かれた長期拘留の中でのことであり、当局による誘導があったと桂川さんは述べており、信憑性に欠けたものです。
  取り調べ期間中、桂川さんが少しでも言い訳がましいことを述べたり、大麻・ドラッグ使用を否定するようなことを言うと、取り調べ官は「あなたの今までの主張からして筋が通らない」と何度も口をはさみ、供述をより違法性の高い内容に導いていったとのことです。

 結局、2003年1月のNさんへの譲渡、それに7月14日の逮捕前夜に訪れたSさんへの譲渡、この2件が法的に営利に当てはまるとみなされたことを根拠にして、桂川さんは所持・栽培していた大麻についても営利目的で起訴されたのですが、この約半年に2回あったとされる例外的事例をもって「多数の相手方に譲渡を繰り返していた事実が優に認められる」(判決文)などと断言することはできません。
  さらに約半年に2回あったとされるこの譲渡の内容を検証すると、1月のNさんへの譲渡については判決文で「譲渡については相手方が大麻の症状緩和を期待して申し込んできたという事情があること」と裁判所も認めているように、世間の通念でいうところの営利目的ではなかったことが明らかになっています。
  そうなると逮捕前夜に桂川さん宅を訪れたSさんへの大麻の譲渡のみが拡大解釈して営利に当てはまる(それにしても、大麻を渡したとされるSさんに対し桂川さんから対価を請求したことはなく、Sさんからの自発的な気持ちをもらったというものです)ということになるぐらいで、判決文の「多数の相手方に譲渡を繰り返していた事実が優に認められる」という判断は事実とかけ離れていることが明らかです。

 押収されている大麻草の栽培94本という本数について、過去の大麻事件裁判では、栽培本数がその数倍あっても営利目的がつかず、判決では実刑にならなかったケース(執行猶予付きの有罪)もあります。また大麻の所持3.5キログラム強という数字は、植物である大麻の中で、喫煙摂取される花穂の部分以外の茎や根を含めた全草の重量です(床に落ちていた屑片まで集めています)。やはり過去の大麻事件裁判で、その倍あまりの重量の大麻を所持していても営利目的がつかず、判決では実刑にならなかったケース(執行猶予付きの有罪)もあります。このように検証していくと大麻の栽培本数も所持量も並外れて「多量」であるとは認められません。

 また判決文では「違法薬物」を引き合いに出して、「結びつきの強さが顕著」であると指摘していますが、それにしては押収されている「違法薬物」がごく微量でしかない(覚せい剤0.192g、MDMA0.217g、通称マジックマッシュルーム1.138g)ことは矛盾しています。
  事実、判決文の文末に於いて、裁判所自ら「ただし、覚せい剤、MDMA及び麻薬原料植物(マジックマッシュルームのこと──引用者注)については所持量が少ない上、被告人自身は覚せい剤を使用しないこと」と認めているぐらいで、「違法薬物」との「結びつきの強さが顕著」であるという論は破綻しています。「多数の者」とか「多量の大麻」といった判決文の表現とは裏腹に、この事件で押収されている大麻や「違法薬物」の総量は並外れたものではありません。

 ところで、第一回公判(9月25日)の検察の冒頭陳述では、桂川さんの「大麻の合法化運動」との関わりや組織的犯罪といった論点が最も大きな位置を占めていたのですが、公判を通して弁護側によってそれが覆されてしまった結果、論告求刑(3月9日)ではそういった論点は大幅に後退しました。検察は、最後の論告求刑に於いて、桂川さんが大麻を含む「違法薬物」に耽溺していたとか、大麻の所持・栽培本数が多いという論点を新たに前面に出してきました。
  それは検察側による「大麻の合法化運動」との関わりや組織的犯罪という当初の論点が破綻したため、その代替として持ち出されてきたものだということができます。また、大麻の所持・栽培本数の多さをことさら強調しているのは、営利目的を裏付けようと意図したレトリックという面もあると思われます。
  押収されている大麻や「違法薬物」の総量は並外れたものではないにもかかわらず、判決文で「多数の者」とか「多量の大麻」といった表現を用いていることは、このような検察側の主張を鵜呑みにしたものです。裁判所は自らの判断を放棄したと言わざるを得ません。

 また、判決文の「量刑理由」の冒頭では、この裁判について「営利目的」の事案であると断定しながら、後半になると「大麻の使用者を増加させようと図り、大麻合法化運動を標榜」というような「営利目的」とは相反するような断定をしていることも矛盾しています。そもそも桂川さんは大麻取締法をはじめとする3つの薬物関係の法律に違反したことで、裁判を受けているのであり、「大麻合法化運動を標榜しながら」などと被告の思想・信条に関わる事項を引き合いに出すことは不適切ではないでしょうか。

 仮に、もしこの事案が判決文のような「営利目的」だとするならば、「大麻合法化運動」というような一文の得にもならない行動と、どこで結びつくのでしょうか。逆に、もしこの事案が「大麻合法化運動」だとしたら「営利目的」と、どこで結びつくのでしょうか。裁判所は、それに対して誰もが納得するような説明ができないまま、この事案の全体像を明らかにする努力を放棄し、検察の主張を折衷的に採り入れて「営利目的」「大麻合法化運動」といった言葉をつなぎ合わせているのは遺憾なことです。
  このような裁判所の姿勢は、公平な裁判を受ける権利を明記している憲法第37条1項に反していると言わざるを得ません。

 当局は大麻の所持と栽培の起訴に関して不等にも「営利目的」を付けたことをはじめとして、当初から「営利目的」の併合罪を適用し重刑を科す方針でいたと思われます。その背景には、前述しましたが、桂川さんをいわゆる「大麻解放運動」(麻取りの調書)、あるいは「大麻の合法化運動」(検察の冒頭陳述)の首謀者と見なしていたことがあげられます。つまり桂川さんの思想・信条に対して弾圧を行うという方針が先にあり、それに基づき一連の捜査・起訴を行ったのです。
  当局は、不等な動機に基づく起訴を行っており、公訴権濫用であります。大麻の解放という思想・信条を懐き、自らの「運動」を行ったことをもって、桂川さんは国家権力から重刑を科せられようとしているのです。厚労省(近麻)・検察(大阪地検)は、憲法第19条(「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」)、及び法の下の平等を明記している憲法14条(「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」)を侵害していると言わざるを得ません。

 また、桂川さんに対する近麻と大阪検察による一連の処遇は憲法第36条(「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」)、及び憲法第38条1項(「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」)、2項(「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。」)に違反しています。このような憲法違反の取り調べ、起訴は無効であります。

 大阪地裁は、桂川さんに対する近麻、大阪地検による一連の取り調べ、起訴が憲法違反
であることに目を背け、近麻、大阪検察の重刑方針に迎合した判決を下したと言わざるを得ません。郷土に根ざし、真面目に社会生活を営んできた人物に懲役5年という重刑を科すことの理不尽さを訴えるものです。


(三) 控訴審に向けた裁判支援について

 一審の判決後、桂川さんは判決を不服とし、改めて自分の信念に基づいた主張を鮮明にして高裁の裁判に臨むという方針を明らかにしています。桂川さんは、そのような方針に基づき新たな弁護体制(金井塚康弘弁護士、丸井英弘弁護士)を組みました。

 カンナビストは、桂川さんが理不尽に裁かれ、不当な境遇にあると思っています。この点がカンナビストが桂川さん裁判を支援する最も大きな論点になっていると思います。また、桂川さんが自分の思いを余すところなく法廷で述べたいと望んでいることも理解します。
  ここに於いて、桂川さんの望むような形で裁判を進めていくにあたっては、桂川さんという存在を中心にした支援運動を新規に立ち上げることが課題になっているのではないかと考えます。その中で、カンナビストは桂川さんの人権を守る立場からの活動を強めていきます。

 控訴審に向けた裁判支援体制として、かって桂川さんと共に「麻の復権をめざす会」を作った山田塊也さんと、地元の町並み保存運動を通じて以来の友人であり、「安曇野勝手連」の世話人であった窪田明彦さんが「桂川救援全国勝手連合」を結成することなりました。ふたりは、精神性・思想信条などの面でも、桂川さんのよき理解者であります。拘留中の桂川さんも、手紙のやり取りを通して「桂川救援全国勝手連合」結成を支持しているとのことです。「安曇野勝手連」に参加していた人たちも「桂川救援全国勝手連合」に合流すると聞いています。
  二審以降の裁判支援活動について「桂川救援全国勝手連合」を中心にしてカンナビストも引き続き支援していきます。このような経緯を踏まえ、「桂川救援全国勝手連合」から情報やメッセージなどがカンナビストに寄せられたときには、引き続き、このホームページ上で報告していきます。
  「桂川救援全国勝手連合」はネットのホームページなどの活動はしていません。しかし、拘留中の桂川さんとの交流を目的としたミニコミ誌を定期的に発行していくことで桂川さんを支援する人たちとの全国的なコミュニケーションの場にしていくとのことです。
  「桂川救援全国勝手連合」に連絡をとりたい方は、下記の連絡先です。

369-1216 埼玉県大里郡寄居町冨田3604-27
山田塊也宛て「桂川救援全国勝手連合」
電話・ファックス 048-582-89779