これはジョイントマンさんが、山崎さんの手書きノートからの抜粋をコンピュータに打ち込まれたものです。一部の氏名をイニシャルに置き換えた以外はジョイントマンさんが手入力されたものをそのまま掲載しています。 |
マスメディアの皆様へ
この手紙が皆様の手元に届くとき私は新東京空港所の留置場にいるはずです。それは思うところがあり、この手紙がそちらに届くよう手配した上で自ら逮捕されるように仕組んだからです。
皆様を通じて確かめたいことがあります。ご面倒ではございましょうが以下の物語に目を通していただけますなら幸いです。そのうえで改めて皆様に申し上げることがあります。
大原さん
大原さんを相手にしばらく話をしていきます。1998年7月からの僕の半年間のことが話の中心です。その時々に書いていた僕の手紙と資料を交えて話をしていきます。大原さんを相手にしながらその向こうに不特定多数の人を意識して話を進めます。それはこれから話す僕の物語をマスメディアに流すつもりでいるからです。すいませんが最後までお付き合いください。
まずは1998年8月に出した僕の手紙を見てほしいのですが。手紙のあて先は泉君です。
泉君への手紙 1998年8月
泉君7月13日に成田に着いた。ところが税関で調べられ逮捕されることになり、そしてその二十日後、起訴されることになった。罪名は大麻取締法違反。現在は裁判待ちの状態で新東京空港署の留置場にいる。まわりにいる人たちの予想では初犯で営利がないから大丈夫だという。けれど僕は裁判でおとなしく執行猶予を願うつもりはない。起訴状が僕のところに届いている。その事実関係に間違えはないようだ。しかしながらそれは僕を納得させるものではない。だから争うつもりでいる。僕の言い分は次のようなものになるだろう。
「はい、私は確かに大麻樹脂40グラムを隠して持って来ました。けれども、そのことをもって自分が悪いと認めることはできません。私を裁き罰するなら、何が悪いのかを明らかにし、そしてどうぞ私にその罪を認めさしてください」。
泉君、これは僕にとってチャンスなのかもしれないんだ。僕は自分の夢をあきらめたつもりはサラサラない。自分の本を出したい。世に聞きたいことがある。僕はそこで法というものに大きく絡む。けれども僕は現実の裁判を知らない。これでは分からないことがあるだろう。現実の裁判はどういうものなのか一度見に行かなければと思っていた。特に僕が見に行きたいのは罪を認めない人たちの裁判だ。刑事裁判には被告人が罪を認めている場合とそうでない場合があるだろう。前者では裁判官は被告人の量刑を決める。そのとき裁判官に必要なのは量刑を決めるための社会性だろうか。後者では裁判官はまず被告人の罪の有無を見なければならない。そのとき裁判官に必要なものは何だろうか?
泉君、前者の裁判には僕はほとんど興味がない。僕が興味を持っているのは後者の裁判だ。人の罪の有無を見るとはどういうことだろうか。
さて、ところで税関職員の取調べで僕はこんなことを聞いた。シンガポールに大麻所持で捕まったイギリス人がいた。シンガポールの法律では死刑になるらしい。そこでイギリス女王陛下より嘆願書が出された。けれどもシンガポールは規則通りに死刑を行った。
泉君、僕は聞きたいんだ。「法治国家って何だ」。僕が興味を持つのは疑惑の人やオウム教の教祖の裁判だ。疑惑の人は今年証拠不十分で無罪になったと週刊誌で知った。裁判官は裁くことができなかったということだね。罪を認めないという点では僕は上記の二人と同じになる。これはチャンスだと思っている。裁判がどのように進んでいくのかを見たいと思っている。僕が裁判で間違うことなく受け答えでき、そして間違うことなく自己主張できたなら、争点は次の二つになると考えられる。まず、「大麻とはどういうものか」。そして「それを使う僕の人格」。泉君、被告人の罪の有無を見る裁判官に必要なものは何なのか僕にはその答えがわかるし、それを実行できるだろう。そのつもりでいる。だけど現実の僕はその立場にいない。ただのプー太郎。僕が世に出したいのは僕が何者であるかの存在証明なんだ。そこに大麻取締法による僕の裁判だ。これは僕のチャンスだ。
「第一回公判は9月29日となった。泉君傍聴に来てくれ」。
大原さんあの時は困ったことになったと思いました。税関で通告書を見られてしまいました。それに続いて大量の石を見つけられてしまいました。で、ちょっと別室へとなりました。「何で通告書なんか後世大事に持ってたの?」。警察でそう問われたんだけどうまく説明できません。それは資料のひとつなんだけど、では、何の資料?説明困難です。いつか僕の夢が叶うときが来れば多少分かってもらえるかなとは思うんだけど。
さて、初めての留置場でしたがそれほど嫌な感じはありませんでした。ただ一点手錠をかけられたことを除いてですが。あれは気分悪いですね。メチャメチャ気分悪かったです。看守さんの一人がタイの事情に明るい人がいて、こんなことを言ってました。「タイでは殺人でもしなきゃ手錠なんてかけないんだ。だからタイ人がこっちで捕まって手錠されると泣き出しちゃう人もいて、、、」。全く気分悪いですよ。まあ、それはそれとして次に僕が持っていた通告書と検事の起訴状そして9月に出した手紙を見てもらえませんか。
成通告第 69号
通 告 書
国 籍 日 本
本籍地(出生地) 和歌山県和歌山市六十谷603−1
住 所( 居所 ) 京都府京都市伏見区新町14−271
職 業 無 職
氏 名 山 崎 一 夫
年 令 当36年(昭和29年1月17日生)
上記に者対する関税法違反けん疑事件に関し、担当職員の報告に基づき
調書を遂げ、次のとおり報告する。
主 文
山 崎 一 夫 は、 この通告書受領の日から20日以内に次の金額
及び物件を成田税関支署に納付せよ。
1、関税法違反による罰金相当額 金 10,000円
2、没収に該当する物件 大 麻 草 0.71グラム
平成 2 年 5 月 2 日
成田税関支署長 塚原 治
上記の期間内に通告の旨を履行しないときは、関税法第139条により告発する。
理 由 |
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犯 則 事 実 |
(1) 犯則の日時 平成2年4月14日 午後0時25分頃 (2) 犯則の場所 成田税関支署北棟旅具検査場 (3) 犯則の動機・目的 自用のため (4) 犯則の手段 ( 隠匿方法・既遂・未遂または予備の別 ) 輸入禁制品であることを知りながら、携行布製手提げ袋 サイドポッケト等に分散隠匿し、密かに輸入しようとしたもの。 (5) 犯則物件( 品名・数量・価格及び支出地 ) 大 麻 草 0.71グラム インド |
証 拠 の 標 目 |
担当職員の報告書、差押調書・同目録、同物件 山崎一夫に対する質問調書 犯則物件鑑定書、分析成績書・鑑定書、仮鑑定報告書、 |
違 反 法 条 |
山崎一夫の所為は、 関税法第109条第2項 に該当し、犯則に係る物件については、 関税法第118条第1項本文 に該当する。 |
(この部分は縦書きに変換してご覧ください)
起 訴 状
左記被告事件につき公訴を提起する。
平成一〇年七月三一日
千葉地方検察庁
検察官検事 小尾 仁
千葉地方裁判所殿
本籍 和歌山県和歌山市六十谷六〇三番地の一
住居 不 定
職業 無 職
勾留中 山 崎 一 夫
昭和二九年一月一七日生
起 訴 事 実
被告人は、みだりに、大麻を輸入しようと企て、大麻である大麻
樹脂三九・〇七グラムを小分けして透明ビニール片で包み、これを
履いていた左右の運動靴内にそれぞれ隠匿した上、平成一〇年七月
一三日(現地時間)、タイ王国バンコク国際空港において、ユナイ
テット航空第八七六便に搭乗し、同日午後二時五五分ころ、千葉県
成田市所在の新東京国際空港に到着し、右大麻を隠匿したまま同航
空機から降り立って本邦内持ち込み、もって、大麻を輸入すると
ともに、同日午後三時四五分ころ、同空港内東京税関成田税関支署
第一旅客ターミナルビル旅具検査場において、携帯品検査を受ける
に際し、右のとおり大麻を携帯しているにもかかわらず、同支署税
関職員に対しその事実を秘して申告しないまま同検査場を通過して
輸入禁制品である大麻を輸入しようとしたが、同支署税関職員に発
見されたため、その目的を遂げなかったものである
罪 名 及 び 罰 条
大麻取締法違反 同法第二四条第一項
関税法違反 同法第一〇九条第二項、第一項、関税定率法
第二一条第一項第一号
泉君への手紙 98年9月
泉君、そちらの方はカレー事件で随分と騒がしいみたいだね。留置場でも自分たちの事件にかかわりがなければ新聞や週刊誌を見れるんだ。で、僕の場合と考え合わせて象徴的だなと思うことがある。それは検察官の姿勢だ。泉君、今回自分が捕まってたくさんの供述書を作ることになった。取調室に僕と刑事の二人。そこに専用の原稿用紙があるんだ。最初の一枚には住所や名前等を書く欄がありそしてこんな文章が印刷されている。
右の者に対する( )被疑事件につき
平成( )年 ( )月 ( )日において、本職はあらかじめ被疑者に対し、自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げて、取り調べたところ、任意どおり供述した。
そして、その後を刑事はこういう言葉から供述書を作り始める。
只今の説明により自分の意思に反してまで供述する必要のないことは分かりました。
私は・・・・・・・・・
供述書は一人称で書かれるんだ。泉君、人称の違いは分かるかな。被疑者の言葉に基づいているといっても実際にペンで書くのは刑事だ。それが普通の刑事なら被疑者との間には一線を引いているだろうね。だからTVドラマを見ていると良く出てくる「刑事の勘」ってやつね。現実にもあるなと思ったよ。でも、勘だけで人を白か黒かと決めつけちゃいけないよね。自分が間違っているかも知れない、そんなことは普通の人なら分かるだろう。だから証拠を積み重ねていく。自分の勘だけじゃなく確かな証拠を出していく。ところが、時代は進む、時代は進み、いつしか本末転倒してしまう。証拠、証拠に振り回され、勘が顧みられなくなる。泉君、そうかもしれない、そう思える起訴状が僕の手元にあるよ。検察官と対面したのは起訴までに二度ばかり検察庁でのこと、まず検事は僕の名前と生年月日を尋ねたあと何かしらの文章を作っていた。やはり、僕の供述書らしかった。一ヶ所訂正を求めた。
「あの、すみません、今のところなんですけど、悪い事とは知りながら持って来ましたではなく、法律で禁じられているのは知りながらに変えてもらえませんか」。
「こだわりがあるんですね」。
「はい、こだわりがあります」。
検察官は笑っていた。彼がどう解釈したかは知らない。けれど僕は自分が大麻を吸うということを悪いとは思っていない。そして今回はそれが必要と考えて持ってきた。非合法なのは知っている。だから隠していた。でも見つかった。仕方がない、それでは良いか悪いか御判断をということだ。検察官との最初の対面は数分で終わった。
泉君、警察での取調べは長時間にわたり、それが何日も続いた。大麻樹脂40g、それだけ見れば世間的には大した事件でもないと思えることにここまでの調べをするのかと驚いた。僕の口からそれが漏れた。すると、刑事からこんな言葉が返ってきた。
「不必要に思えるかも知れねえけど、大麻持ってますだけじゃ、物語にならねえだろ」。
検察官との二度目の対面は前回よりは長くかかった。検事はワープロを使い僕の調書を作っていた。でも、それは警察で作ったそれのダイジェストでしかなかった。すでに書いてあることを確かめる以外の何の質問もなかった。泉君、僕は覚えているんだ。そのときの自分の心を覚えている。僕は何のためにここに来ているんだろうと思っていた。検事は僕を前にして何も調べる気がないのかと思っていた。そして、逆に聞かれもしないのに僕のほうからつまらないことを言ってしまった。
「石と細密画等を合わせて二千ドルにはなるんですけど、私はそのお金を払ってないんですよ。今度帰ったら返さなきゃいけないお金ですが、インドの二千ドルは日本の二十数万円の価値じゃないですよ」。
意味が通じたのかどうか分からない。検察官の応えはなかった。その数日後、起訴となり
起訴状を見て思った。
検察官は僕を見ていない。
大麻樹脂がそこにある。それだけを主張した文章に見える。ただ一ヶ所僕の人格に触れて
いる言葉があった。裁判で尋ねてみたいと思っている。
検事さん私は大麻を持っていますから法律違反は確かですが、みだりにそれを行ったつもりはありませよ。検事さんは私の何処がみだりだったというのですか。
泉君、意地を張っているつもりはないんだ。自分が悪いとみだりだったと認めさせてもらえるなら、それはそれでいい。まあ、聞くところによるとこれぐらいだと執行猶予らしいからそれは、まあ、ありがたい。こっちはさっさと牢屋から出たいんだ。けれどもだ、早く出たいが為に悪いと思っていないのに罪を認めて執行猶予を狙うというのは僕の好みじゃない。嫌だ。それはそれこそが嘘だと思っている。実のところ裁判がどういう展開になるのか初めての僕には分からない。何の予想もつかない。間違うと実刑かもしれない不安もある。それでも後には引けない。僕の性分だ。
ところで泉君、そちらでのカレー事件、黒に近い容疑者がいるらしいね。それなのに起訴するには証拠が足りないとかで逮捕できないと週刊誌にあった。それは本当なのか。だとしたら検察官ってなさけないんだね。週刊誌が騒いでる、僕には分からないけど、TVも騒いでるんだろうね。
検察官はどう考えてるんだろう。罪を認めさせる自信がないのかな。あるいはその方法を知らないのか。だから証拠に頼らざるを得ないのか。でも、それじゃ、つまらない。それでは検察庁の存在価値がない。物的証拠にしか頼れないなら警察が検事を兼ねれば済むことだから。
泉君、今回自分が捕まって警察の調べは僕の予想以上だった。多量の調書それには僕のさまざまな情報が記されている。それをどのように読み取るかそしてどのように罪を立証するかが検察官の仕事だと思っている。警察の調べは密室で行われる。けれどもその後、起訴がなされたならその裁判は公開で行われる。検察官の腕の見せ所だろう。密室ではない人々が見る公判だ。そこで被告人の悪を立証すればいいんだ。
ところで検察官はそのやり方を知っているんだろうか。おそらく彼らは知らないんじゃないかと僕は想像している。でも、だから僕にも勝機がある。9月29日、僕は被告で登場する。僕を訴える検察官に実はあなたが間違っているだと立証しよう。僕の側に物的証拠はない。そんなものはいらない。検察官自身に納得させればいいんだ。
大原さん、僕は人称に非常にこだわるんですよ。そしてもうひとつその言葉の叙事と叙情にこだわります。その二つに注目すると人の言葉の嘘が見えてくるんです。たくさんの人にそれを知ってもらいたいと思ってるんだけど、説明的な言葉はあまり得意じゃありません。あとでマスコミを相手に語るときに叙事と叙情それに人称についてのことがちょっと出てきますのでそちらも見てもらえるでしょうか。
大原さん、留置場から出す手紙と届く手紙には検閲があります。こんなことがありました。
「この手紙は出せないよ、別に警察の悪口かいてもおれたちの悪口買い手も検閲は通るけど、これは留置場の量が何枚でとか事細かに書いてるじゃない。こういうのは検閲通らないんだよ。まあねえ、留置場から出てからなら自由なんで矛盾感じるんだけどさ」。
ということで次はその検閲の通らなかった手紙ですが検閲が通らなかったのはその一枚だけでした。