北海道新聞社説(11/7)への意見書


 11月7日付けの北海道新聞社説「大麻汚染 若者への拡大防がねば」に対して、以下の意見書を送付しました。

 


北海道新聞 社説「大麻汚染 若者への拡大防がねば」(11月7日)への意見書

株式会社 北海道新聞社
 代表取締役社長 菊池育夫 様
 社説担当者 様

2008年11月21日
カンナビスト運営委員会

 前略
 わたしたちは現在の大麻の取り締まりの見直しを訴えて活動している市民団体です。
 北海道新聞の11月7日の社説を拝見しましたが、その内容は、大麻に対する誤解や偏見が目につき、本当に大麻問題に向き合っているようには思えませんでした。残念ながら、読者に対し世の中の出来事を公正に伝えているとは言えないものでした。以下、問題点を指摘いたします。

 まず最初に、慶大生の大麻事件、道内の大麻事件、大相撲の外人力士の大麻事件などを「大麻汚染」「大麻犯罪」と呼んでいますが、「大麻」を「汚染」や「犯罪」と結びつける表現は適切ではありません。メディアは、取締り当局の広報機関ではないはずです。このようなネガティブで扇情的な印象を与える言葉を結びつけることこそ大麻に対する誤解や偏見を示していると指摘しておきます。
 大麻事件の逮捕者たちは、日本の法律に違反して逮捕されていることは事実であり、そのほとんどは有罪判決を受けています。それは、いわば事実関係に属することですが、刑事手続きがどれほど適正であっても、処罰の必要性のない行為を処罰し、犯罪行為に比較して異常な重罰を科するなど、刑罰の内容そのものに問題があるならば、それ自体が刑罰権の濫用だと考えられます。わたしたちは、その法的根拠になっている大麻取締法について、憲法違反の法律であると訴えてきました。

 現在、G8(先進8カ国)で 個人的な大麻使用に懲役刑を科しているのは、日本とアメリカ(連邦法および一部の州法)においてのみですが、アメリカにあっても大麻使用は日本ほど厳しく取締りが行われて おらず、州によっては逮捕されることもありません。オランダ、ベルギーに限らず、多くのヨーロッパ諸国や、ロシア、カナダ、オーストラリア、中近東などの国々において、現在、個人使用の摘発はほとんど実施されていないか、罰金などの科料が定められているだけです。
 主要先進国の中では、日本のみが非常識といえるほど過度に厳しく大麻を取り締っています。このような日本の大麻取締り政策は、公権力による国民に対する人権侵害といっても過言ではありません。

 現在、大麻の規制を見直すべきだという声が社会的に存在しています。個人で情報を発信できるインターネットには、このような意見がかなりの規模で存在していることを示しています。各地の大麻事件裁判で、大麻取締法は違憲であると争われてきました。
 社会に賛否両論の意見がある問題に対して、一方の側の取締り当局の言い分だけを取りあげ、「大麻汚染」「大麻犯罪」と報じているのは、メディアとしての公平さ、公正さを欠いているのではないでしょうか。
 わたしたちは、大麻の取締り政策について、いまここでメディアとして賛成か、反対かといった意思表示を求めているのではありません。社会の中に、賛成と反対の両意見があることを国民に正しく伝えるべきであると求めているのです。国(行政)の主張だけを伝え、それに対する反対意見が存在することを伝えないのは、メディアとして大きな誤りであると指摘しておきます。


(1)「大麻の所持や栽培、売買は犯罪であり、人生を大きく狂わす結果につながることを、若者たちに強く訴えたい。」という記述について。

 若者たちの人生を案じる気持ちはわたしたちも同感ですが、有害性の低いもの(大麻)を「犯罪」として取締り、重い刑罰を科している現状、それによって「人生を大きく狂わす結果につながる」といった事態が起きているその理不尽さをどうして問題にしないのでしょうか。
 社説で述べていることは、比喩的に言うと、掟を破った者は罰せられるということに尽きており、それではまるで封建時代と変わりません。大麻事件は、被害者のいない犯罪と言われています。逮捕者は、他者に危害を加えたわけでも、金品を奪ったりしたわけでもありません。大麻の有害性はタバコやアルコールに比べても高いとはいえないレベルです。そして逮捕されているのは、ごく普通の一般市民や学生です。
 メディアの持つ公共性を自覚されるならば、このような掟(大麻取締法)が生みだしている弊害という問題を読者に伝えるべきではないでしょうか。結局、法律で刑罰を科さなければならない根拠が極めて曖昧なことが、大麻取締法の一番の問題点であり、過去最大を更新している摘発者数で示されているような、この法律が守られない大きな理由なのです。
 本来、新聞は社会の公器として、個人では声の届かないような大企業や公権力のかかえる問題、あるいは現行の法律そのものの問題点などについて、国民の視点に立って意見を述べる立場にあるはずです。大麻問題に対してそのような立場からの報道を期待いたします。


(2)「大麻は吸引すると幻覚などをもたらす。さらに覚せい剤など別の不正薬物依存につながっていく「入門薬物」としても問題視されている。」という記述について。

 「大麻は吸引すると幻覚などをもたらす」という記述は根拠がありません。そのような情報の出典は、きわめてあやふやで、新聞が社説で取りあげるには適していません。一方、世界的に通用している医学書「メルクマニュアル」や「WHO報告書」では、大麻の作用として幻覚を認めていません。
 また、大麻がいわゆる「入門薬物」であるという説、通称ゲートウェイ・ドラッグ説は、厚労省が過去に行っている委託研究でも、アメリカの公的研究でも否定されています(注1、2)。一件、もっともらしく見えるのは、疑似相関の関係を大麻に対する誤解や偏見により、あたかも事実であるかのように受けとめてしまうということです。
 「幻覚」にしても「入門薬物」にしても、世界的には信憑性を失っているのですが、わが国では多くの読者を持つ新聞が社説で堂々と取りあげています。このような無知はメディアとして、恥ずべきことだと思います。


(3)「関係機関による啓発活動をさらに充実すると同時に、社会が有害性について理解を深め、大麻犯罪を根絶やしにしたい。」という記述について。

 大麻による身体的・社会的害は、タバコやアルコールより高いものではありません(注3)。大麻の有害性・危険性は、鎮咳薬や鎮痛薬を含めた他の薬物よりも低いことが公的機関の調査結果からも確認されています(注4)。また、2004年、厚労省への情報開示請求によれば、日本国内で大麻が原因の各種の病気・健康障害は起きていないこと、大麻が原因による二次犯罪は起きていないという回答を得ています(注5)。
 大麻の有害性の有無について、これまで大麻事件の裁判でたびたび争われてきましたが、「人体に対する有害性を否定し、又は有害性を肯定できるだけの決定的な証拠はないとする見解も存在することが認められる」という司法の見解が出ています(注6)。
 メディアとしてよく考えてもらいたいことがあります。大麻について、読者に誤解や偏見に基づく情報を伝え続けることによりどのような影響が生じているかです。薬物の乱用を防ぐために、そういった報道をしているとしても、若い世代をはじめとして多くの人々が、メディア報道の信憑性を疑いだすことにつながっているのです。結果的に、薬物乱用を防ぐための啓蒙活動にとってマイナスになってきているということを指摘しておきます。


 「大麻犯罪を根絶やしにしたい」という文言で社説を結ばれていますが、この数年、大麻取締法による逮捕者数は増え続けている一方、健康被害が出ているわけでもなく、治安を悪化させる二次犯罪が出ているわけでもありません。大麻をきっかけに、覚せい剤など他の薬物に手を出す者の数が増えているわけでもありません。
 何のために逮捕しているのか、突き詰めていくと、その理由が見あたらないのです。社説の主張は、物事の道理に反し無理を押し通そうとしているのではないでしょうか。このような無理を押し通すことにより、年間2000人以上の市民・学生が逮捕され、仕事や学籍を失っている悲劇に気づくべきです。
 大麻問題を解決するためには、「有害性」のそれほどないものに、過剰とも言える重罰を科している現実を改め、大麻を犯罪ではなくすことこそが求められているのだと指摘し、意見書の結論といたします。


【注】

(1)「大麻乱用者による健康障害」(依存性薬物情報研究班)

(2)Institute of Medicine, 1999, Marijuana and Medicine. 全米医学研究所(IOM)の報告書

(3)EMCDDA, 2008, EMCDDA Monographs Vol2, Chapter7: p150.

(4)国立精神・神経センター精神保健所研究所薬物依存研究部(和田清)、「依存性薬物乱用者・精神病の最近の疫学的動向」/「臨床精神薬理」Vol.6 No.9. 2003)

(5)「行政文書不開示決定通知書」(厚生労働省発薬食第0408033〜66号)

(6)高松高等裁判所・判決文、平成16年(う)


【カンナビストについて】
 日本の大麻(マリファナ、カンナビス)取締りは、著しい有害性は認められない大
麻に対し過剰に厳しい刑罰を科しており、年間3000人以上の市民が逮捕されている状
況は公権力による人権侵害であると訴えている非営利の市民運動。
  設 立:1999年7月1日
  会員数:4,602人(2008年9月9日現在)
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