二人の塾生の処遇に関する慶應義塾への要望書

慶応義塾大学の学生・大学院生がそれぞれ異なる大麻事件で逮捕されたことが新聞等で報道されました。この件に関して、カンナビストは、人権に配慮した適切な処遇を求める以下のような要望書を慶應義塾の塾長宛に送りました。


大麻問題に関連して二人の塾生の処遇について要望いたします

慶応義塾
 塾長 様

2005年10月04日
カンナビスト運営委員会

前略

 わたしたちは現在の大麻の取り締まりの見直しを訴えて活動している市民団体です。先頃、新聞報道を通じて、慶応義塾大学医学部大学院生・A氏(原文では実名)、同経済学部2年・B氏(原文では実名)の二名がそれぞれ別個に大麻取締法違反の疑いで逮捕されたことを知りました。新聞報道によると、所持量はそれぞれ11グラム、1.2グラムと少量であり、いずれも犯罪性の低い事件であると理解しております。

 わたしたちは、このような犯罪性のそれほど高くない事件によって、将来ある若い二人の塾生が教育を受ける機会を奪われるような事態に至るようなことがあってはならないと案じています。二人の塾生が望むならば、今後も貴塾にて教育が受けられるように、人権に配慮した適切な処遇を下されるよう要望いたします。

 

一、大麻についての事実

 わたしたちは、薬物乱用、薬物汚染という言葉で、大麻と他の薬物がひとくくりにされている現状に問題があると強く感じています。大麻はシンナー、覚せい剤、麻薬などと化学的にも全く別のものであり、心身に与える影響や有害性も大きく異なります。大麻に関しては、アルコールやタバコよりも害が少ないというのが海外の最新の研究結果として明らかになっており、欧米の先進国では大麻の少量の個人使用は犯罪として扱わない、いわゆる非犯罪化政策を取っているところがほとんどです(注1)。これは、大麻を使用することによって生じ得る弊害と、使用者を罰することによる弊害とを比較して、どちらが個人あるいは社会にとって弊害が大きいかを客観的に判断した結果です。

 しかしながら、日本では、このような事実についてふれられていないどころか、覚せい剤や麻薬などと同じように危険な薬物として扱われているのが現状です。大麻を危険なものとして取り上げている新聞・雑誌記事や書籍、マスコミ報道などを見ると、既に否定されている過去のデータに基づいていたり、科学的に信ぴょう性の低い情報が含まれていたり、出典が明らかにされていない(できない)情報に基づき書かれているものが大部分です。

 2004年、厚生労働省に対し情報公開法に基づき、大麻の有害性について情報開示請求を行いましたが、その回答によれば、日本国内で大麻が原因の各種の病気・健康障害は起きていないこと、大麻が原因による二次犯罪は起きていないことが明らかになっています(注2)。

 さらに大麻事件の裁判の公判でも、大麻を有害だとして広報活動をしている代表的な団体である「麻薬・覚せい剤濫用防止センター」の公表している大麻の「有害性」情報について、根拠がないということが明らかになっています(注3)。

 

二、二人の塾生の処遇について

 憲法第26条では「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」とされています。わたしたちは、この憲法の精神を大切にすべきではないかと考えます。

 本年3月、最高裁第二小法廷は、大麻取締法違反で逮捕され起訴されていた20歳の男性について、大学受験を理由にして保釈の決定を出しています。この最高裁決定は新聞報道でも報じられました(注4)。新聞報道によれば最高裁が保釈を決定した理由は「前科前歴がなく、家族と同居し、芸術大学を目指して受験勉強中であり、試験の期日が目前に迫っている」とのことです。

 新聞報道によれば最高裁が保釈を決定した理由は「前科前歴がなく、家族と同居し、芸術大学を目指して受験勉強中であり、試験の期日が目前に迫っている」とのことです。これは大麻取締法で逮捕された場合でも、客観的に犯罪性が高くないならば、成人になったばかりの若者の教育を受ける機会を妨げることは好ましくないと司法が判断したと受けとめられます。

 わたしたちは、大麻の有害性・危険性は、比較的軽微であるという事実に基づき、罪刑の均衡の見地からもその判断はもっともであると考えます(注5)。

 わたしたちの理解では、二人の塾生はいずれも少量の大麻を個人使用目的に所持していたという、刑事事件とはいえ被害者の存在しない犯罪性の低い事件であることを踏まえ、若い二人の将来を最優先に考え、公正かつ適切な判断をしていただけるよう願っています。

 

【注】
(注1)朝日新聞2001年3月27日付け朝刊記事「大麻 欧州「容認」へ傾斜」

(注2)厚生労働省発薬食第0408034〜43, 45〜52号、第0408033号。

(注3)大阪高裁の大麻事件裁判の公判で、弁護人から検察に対し「麻薬・覚せい剤濫用防止センター」の公表している大麻に関する情報について、実際に大麻の害悪の具体的証明があるのか、出典などが明らかにするよう求めたところ、検察側の答弁は同センターに問い合わせたが回答をもらえなかったので、釈明しないというものでした。
これは「麻薬・覚せい剤濫用防止センター」の公表している大麻の「有害性」が、根拠のない情報だということが法廷の場で明らかになったということを示しています。
平成16年(う)第835号 大麻取締法違反事件 11月24日、大阪高裁公判。

(注4)朝日新聞2005年4月3日付け朝刊記事「大麻事件の20歳被告受験前日に保釈許可」

(注5)日本国憲法「第31条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」
「第36条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。」

 

【カンナビストについて】
 カンナビストは現在の不当に厳しい大麻取り締まりの見直しを求めて活動している非営利の市民団体です。

  設 立:1999年7月1日
  会員数:3,747人(2005年9月30日現在)
  ホームページ http://www.cannabist.org/

 カンナビストは、科学的に見てアルコールやタバコと比較しても有害とはいえない大麻に対して、現行の大麻取締法に基づく取締りや刑事罰、および社会的制裁は不当に重く「人権侵害」であるとの主張に基づき、大麻の個人使用の「非犯罪化」を提案しています。

 カンナビストでは、大麻に対する誤解や社会的偏見を正すことに主眼を置き、インターネットによる情報提供、ニュースレターの発行、定例会の実施、各種イベントへの参加をはじめとする啓蒙活動などを行っています。現在、日本弁護士連合会に大麻問題について「人権救済申立」を行う準備をしています。

 カンナビスト運営委員会
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  電子メール:info@cannabist.org   ホームページ: http://www.cannabist.org/