●朝日新聞社への要望書(2004年9月28日)
2004年9月24日の朝日新聞(朝刊12面)に掲載された「にっぽんの安全 薬物汚染、若者に拡大」という記事に関して、大麻についての説明文に誤りがあるこ とを指摘し訂正を求める要望書を朝日新聞社宛に送付しました。
要 望 書
朝日新聞社
代表取締役社長 殿
広報部 殿
平成16年9月28日
カンナビスト運営委員会
要旨
「にっぽんの安全 薬物汚染、若者に拡大」(朝日新聞2004年9月24日、朝刊第12面)という記事に掲載されている大麻についての説明文に誤りがありますので指摘し、訂正を求めます。
理由
まずはじめに、わたしたちは、朝日新聞が、将来に向けよりよい日本社会を築いていきたいというスタンスから多様な社会問題をとりあげていることに共感しております。その上で、今回の記事に関しては、薬物問題についての本質的な観点が抜け落ちており、表層的な内容であったという印象を懐きました。しかしここでは、そういった問題についてはふれません。
問題の記事の「主な違法薬物」という項目で紹介されている「大麻」に関する記述は以下となっています。
「大麻 大麻草の葉を乾燥させたマリファナのほか、すりつぶして固めた大麻樹脂、葉や樹脂から成分を抽出した黒いタール上の液体がある。生殖機能に影響し、不妊や流産の原因となる。」
しかしながら大麻が「生殖機能に影響し、不妊や流産の原因となる」というような事実はどこにもありません。1960年代にそのような仮説が出されたことがありましたが、その後の研究の結果、事実でないことが明らかになっています。現在、この分野での研究の進んでいる欧米の専門書等でも、否定されています(下記「参考」を参照)。
また今年、厚生労働省に対し「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」に基づいて大麻の身体的影響に関する情報開示請求を行いました。その中には以下のような質問が含まれていました。
- 「日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の胎児の大麻中毒に関する一切の情報。」(厚生労働省発薬食第0408051号)
- 「日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の流産に関する一切の情報。」(厚生労働省発薬食第0408050号)
- 「日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の死産に関する一切の情報。」(厚生労働省発薬食第0408049号)
- 「日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の精子数の減少に関する一切の情報。」(厚生労働省発薬食第0408048号)
上記の4件に対する厚労省の返答は「開示請求に係る行政文書を保有していないため」不開示というものでした(平成16年4月8日)。国として、大麻摂取が原因の胎児の大麻中毒、流産、死産、精子数の減少などに関するいかなる情報も確認していないということです。
貴紙の「生殖機能に影響し、不妊や流産の原因となる」という記述は、誤りではないでしょうか。新聞報道の最も基本的な原則として、客観的事実であるか否かの判断については慎重であらねばならないと思います。わたしたちは、現在の日本では大麻問題について、誤解と偏見がまかり通っていると認識しております。貴紙が、そのような誤解や偏見を助長しているのだとすれば、それはとても残念なことです。
わたしたちは、指摘いたしました記述について、貴紙が紙面に於いて、訂正されるよう希望するものであります。
参考
■ 『メルクマニュアル 第17版 日本語版』(米国メルク社発行、14カ国語に翻訳され、医師のバイブルとして世界で最も広く利用されている医療手引書)からの引用:
「妊娠女性総数の約14%が,ある程度マリファナを使用している。Δ-9テトラヒドロカナビノール(マリファナの主要有効成分)は胎盤を通過できるため,胎芽を損傷する可能性がある。しかし,マリファナ使用によって先天異常,発達遅滞,または出生後の神経行動障害のリスクが上昇することを実証した,ヒトについての研究はほとんどない。」
■ 『Cannabis: a health perspective and research agenda』(WHO:世界保健機関が発行した大麻と健康問題に関する1997年の報告書、翻訳:カンナビスト運営委員会)からの引用:
「妊娠中の大麻使用が子宮内の胎児に直接的に悪影響をおよぼし、先天的欠損症のリスク拡大につながるか否かについては確認されていない。数限りあるヒトについての研究においては、先天的欠損症のリスクを増大させるという一貫した結果は得られていない。
大麻使用がどちらかの親に染色体や遺伝子の異常をもたらし、それが子供に遺伝することを示す証拠はほとんどない。」
■ 『Marijuana and Medicine --- Assessing the Science Base』(IOM:米国科学アカデミーの付属機関である医学研究所が1999年に発行した大麻の医療使用に関する研究レポート、翻訳:カンナビスト運営委員会)からの引用:
「ヒトに対する研究結果いくつかは、THCが黄体ホルモンの機能を阻害するという短期的な動物に対する研究結果と一致するものもある。しかしながら、大麻を日常的に使用している男性および女性についての研究では、生殖ホルモンが減少するという結果もあれば、影響はない、あるいは短期的な影響のみとするものもあるなど、相反する結果が出ている。……
胎内での大麻への暴露と出産結果との関係については一貫した結果が得られていない。」
質問・回答送付先
カンナビスト運営委員会
〒154-0015 東京都世田谷区桜新町2-6-19-101
TEL/FAX:03-3706-6885
カンナビストについて
カンナビストは大麻の個人使用の「非犯罪化」(刑罰の軽減化)を目指して活動している非営利の市民団体です。
設 立:1999年7月1日
会員数:3,226人(2004年8月31日現在)
ホームページ http://www.cannabist.org/
カンナビストは、科学的に見てアルコールやタバコと比較しても有害とはいえない大麻に対して、現行の大麻取締法に基づく取締りや刑事罰、および社会的制裁は不当に重く「人権侵害」であるとの主張に基づき、大麻の個人使用の「非犯罪化」を提案しています。
カンナビストでは、大麻に対する誤解や社会的偏見を正すことに主眼を置き、インターネットによる情報提供、ニュースレターの発行、定例会の実施、各種イベントへの参加をはじめとする啓蒙活動などを行っています。
以上
●朝日新聞社からの回答(2004年10月6日)
9月28日にカンナビストは、朝日新聞に掲載された「にっぽんの安全 薬物汚染、若者に拡大」(9月24日付け朝刊12面)という記事に関して、大麻についての説明文に誤りがあることを指摘し訂正を求める要望書(9月28日付け)を朝日新聞社宛に送付しました。
それに対して、朝日新聞社から以下の返答が届きました。
●朝日新聞社への(再)要望書(2004年10月20日)
9月28日に送付した要望書に対する10月6日の朝日新聞社からの回答は納得のいくものではなかったため、再度、要望書を送りました。
要望書とともに、サロン(掲示板)で、朝日新聞社からの返答をめぐって語られてきた書き込みも参考資料として添付しています。
再度、要望いたします
朝日新聞社
代表取締役社長 殿
広報部 殿
2004年10月20日
カンナビスト運営委員会
前略。
先日、わたしたちは貴紙の記事に誤りがあるのではないかと指摘した「要望書」(9月28日付け)をお送りしました。それに対して広報部から10月6日付けで返答をいただきました。しかしながらその返答は、大麻が「生殖機能に影響し、不妊や流産の原因となる」(9月24日記事・説明文)という記述の誤りを指摘したことについて何もふれておりません。
お送りしました「要望書」の冒頭を引用しますと、わたしたちは「「にっぽんの安全 薬物汚染、若者に拡大」(朝日新聞2004年9月24日)という記事に掲載されている大麻についての説明文に誤りがありますので指摘し、訂正を求めます。」と書いています。その根拠として、海外の権威ある専門書の記述、厚生労働省の文書をあげました。
貴社(広報部)の返答は「9月24日付朝刊にある「大麻」についての説明文は、関係方面への取材に基づく記述です。訂正が必要な記事だとは考えておりません。」というものでした。前述しましたようにこれでは、何も返答をいただけなかったのと同じです。ここで二点に絞り、お尋ねいたします。
一. 記事が事実誤認であるという指摘について、「関係方面への取材に基づく記述です」というのでは、返答になっていません。わたしたちは、根拠ある資料を添えて、記事の内容が客観的・科学的に誤っていると指摘しました。もし該当する記述が事実であるというのならば、それを実証する客観的な資料や情報、出典などをあげていただけないでしょうか。「関係方面への取材」をしているならば、それを示し得るはずです。
それを示せないということは、そのような客観的な資料や情報、出典などはなかったと理解せざるをえませんが、そのように理解してもよろしいのでしょうか?
二. わたしたちは、記事の内容が客観的・科学的に誤っていると指摘しているのであって、仮にそれが「関係方面への取材に基づく記述」であったとしても、内容が誤っていたのか否か、紙面に掲載した報道機関として返答していただきたいと思います(内容について誤っていたのか否か判断を下すのには、ある程度の時間を要するというのであれば、その旨、意思表示していただければ、配慮いたします)。
返答をいただけないということは、朝日新聞は、記事に書かれている内容が客観的事実ではないと根拠ある資料を基にして指摘されても、それについて答えるつもりはないという見解を示しているものと理解せざるをえませんが、そのように理解してもよろしいのでしょうか?
補足 ── 大麻取締法で毎年、2000人以上の逮捕者が出ています。今から20年ほど前に、大麻取締法が基本的人権を侵害する法律であって憲法違反でないかと最高裁で争われたことがありました。その時点では、大麻には「有害性」があることを理由に合憲であるという判断が下されました。しかし、1990年代以降、EUをはじめとする西欧諸国の公的機関の研究では、大麻の「有害性」は、それまで考えられていたよりは低い(アルコールやタバコよりも「有害性」が低い)ことが明らかになり、それらの国々で大麻の非犯罪化が進みました。
現在、先進諸国の中で大麻を、他の「麻薬」類と混同しているのは日本だけです。大麻を使用することによる弊害(心身や社会に与える影響)よりも、大麻取締法によって逮捕され刑事罰を受けることの弊害(当事者・家族の生活上、及び社会的影響)の方が大きいというのが現実です。わたしたちは、現在の日本の大麻取り締まりは、公権力による人権侵害であると考えています。
日本では大麻をシンナーや覚せい剤と同じように「薬物汚染」と一括りに見なし、過剰に有害視した偏見がまかり通っており、大麻問題について理性的に議論することができないというのが現状です。今回の朝日新聞の記事は、このような大麻に対する偏見を助長する部分があったのではないかと思われ要望書を送付いたしました。
今月15日、最高裁で「水俣病関西訴訟」の判決があり、国・県の責任を認定したことを朝日新聞16日紙面でも大きく報じていました。社会面には「メディアの責任大きい」という見出しで次のようなコメントが掲載されています。「著書で報道の責任を指摘した元朝日新聞記者の柴田鉄治・国際基督教大学客員教授(ジャーナリズム論) 患者の救済に半世紀もかかったとは尋常ではない。水俣病の歴史を考えるとメディアの責任は大きい。特に初期段階で地方ニュースに対する全国紙の感度の鈍さ、企業と行政・学界の一部による「非水銀説」の虚構を見抜けなかったことは、原因確定を10年余も遅らせることに直接つながった。当時でも取材を深めていれば見破れたはずだ。メディアはこの教訓を今後に生かしてほしい。」
わたしたちは、大麻問題に対するマスコミ報道の現状は、上記引用文で述べられているかつての水俣病に対するマスコミ報道と共通するものがあるのではないかと思っています。
質問・回答送付先
カンナビスト運営委員会
〒154-0015 東京都世田谷区桜新町2-6-19-101
TEL/FAX:03-3706-6885
●報道と人権委員会への見解を求める文書(2004年10月20日)
この間の朝日新聞社の記事に関する対応について、見解を求める文章を朝日新聞の「報道と人権委員会」へ送付しました。
「報道と人権委員会」は記事や記者をめぐる人権問題に対応するために設立され、朝日新聞の報道にかかわる人権侵害を救済するための第三者機関です。
文書とともに、サロン(掲示板)で、朝日新聞社からの返答をめぐって語られてきた書き込みも参考資料として添付しています。
朝日新聞社
「報道と人権委員会」殿
2004年10月20日
カンナビスト運営委員会
前略。
わたしたちは、大麻の非犯罪化を求めて活動している市民運動団体、カンナビストと申します。先日、わたしたちは朝日新聞の記事(「にっぽんの安全 薬物汚染、若者に拡大」(朝日新聞2004年9月24日))に、大麻について誤った記述があるのではないかと朝日新聞社に「要望書」(9月28日付け)を送りました。
それに対して朝日新聞社広報部から10月6日付けで返答をいただきました。しかし、わたしたちの理解では、この返答はわたしたちの指摘について何もふれていないもので、納得できるのものではありませんでした。この返答に対して、わたしたちは「再度、要望いたします」(10月20日付け)を朝日新聞社に対して送りました。
今回、わたしたちが指摘した記事コピー(9月24日朝日新聞記事・該当部分)、カンナビストの「要望書」(9月28日付け)、朝日新聞社広報部の返答(10月6日付け)、そしてカンナビストの「再度、要望いたします」(10月20日付け)を同封させていただきました。また、参考のためにわたしたちの意見をまとめたニュースレター、リーフレット、それに返答についてカンナビストのホームページの掲示板に書き込まれた文章のコピーなども同封させていただきました(このホームページは一般公開しているもので掲示板には会員・非会員を問わず誰でも自由に書き込みができます。当然ながら、そこに書き込まれる意見は、団体としてのカンナビストの見解ではありません)。
わたしたちは、現在の日本の大麻取り締まりは、公権力による人権侵害であると捉えています。そのような立場から、現在、日弁連に対して大麻問題ついての人権救済申立を行う準備もしております。
わたしたちは、このような人権侵害が日本社会でまかり通っている要因のひとつとして根拠なく大麻を有害視する誤解や偏見があると認識しています。該当記事は、大麻について客観的事実ではない誤りを記載しているものであり、大麻についての誤解や偏見を助長するものであるとわたしたちは受けとめています。
日々、いろいろな記事を書いている記者の方に対し、取材した個々のテーマについて、完璧な知識がなければいけないなどと要求することは、現実的には不可能かと思います。また「取材源あるいは取材内容の秘匿」に対し異議を唱えているわけでもありません。
わたしたちは、新聞に掲載された記事の記述に客観的・科学的な誤りがあるのではないかと資料を添えて指摘したのですが、朝日新聞広報部の対応について、「報道と人権委員会」としてはどのように考えられますでしょうか。
カンナビスト運営委員会
〒154-0015 東京都世田谷区桜新町2-6-19-101
TEL/FAX:03-3706-6885
カンナビストについて
カンナビストは、科学的に見てアルコールやタバコと比較しても有害とはいえない大麻に対して、現行の大麻取締法に基づく取り締まりや刑事罰、および社会的制裁は不当に重く「人権侵害」であるとの主張に基づき、大麻の個人使用の「非犯罪化」(刑罰の軽減化)をめざし活動している非営利の市民団体です。
カンナビストは、大麻に対する誤解や社会的偏見を正すことに主眼を置き、インターネットによる情報提供、ニュースレターの発行、定例会の実施、各種イベントへの参加をはじめとする啓蒙活動などを行っています。
設 立:1999年7月1日
会員数:3,226人(2004年8月31日現在)
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