朝日新聞の記者が大麻取締法で逮捕された件について、朝日新聞社に送った「請願と質問」です。
また、8月20日付けで朝日新聞社広報室からの回答がありました。あわせて掲載します。
朝日新聞社への請願と質問
拝啓 時下貴社益々のご清祥のことお喜び申し上げます。
朝日新聞社 代表取締役社長 殿
平成13年8月17日
カンナビスト運営委員会
東京都世田谷区桜新町2-6-19-101
願意
8月8日に大麻取締法違反の容疑で逮捕された御社社員 A氏(原文は実名)に対する処分について、人権に十分配慮した対応をいただけますよう請願いたします。
また今回の事件を報じた朝日新聞の記事内容(8月9日付け朝刊)について、下記のような疑問があります。それについて質問いたしますので、お答えいただけないでしょうか。
請願理由
欧米の研究機関などによる最新の科学的研究の結果を見ると、大麻はアルコールやタバコに比べても著しく有害ではないという意見が主流となっており、世界的にも大麻の個人使用を容認する動きが進んでいます。
例えば、本年3月27日付け朝日新聞朝刊の記事(「大麻・欧州『容認』へ傾斜」)でも取り上げられているように、ヨーロッパ諸国では個人使用の範囲であれば大麻を所持、使用、栽培しても刑事罰として扱わない、いわゆる「非犯罪化」という政策を取っている国があり、今後もさらに増える傾向にあります。
ここ日本においても、大麻を使用することによる心身、及び社会に対する影響と比較して、現在の大麻取締法で定められている刑罰はあまりにも重く、人権侵害であるという意見が広がっています。少量の所持や栽培に対する刑罰の軽減を求める声も出てきています。
このように社会的に意見が対立している問題については、出来る限り多くの角度から論点を明らかにし、偏見にとらわれない公正・中立な視点を貫くことが報道機関の原則であると理解しております。御社におかれましても、今回の事件に関して、以上のような問題について検討されたうえ、人権に十分配慮した対応をしていただけますよう、お願いいたします。
付随して、今回の事件の当事者 A氏は、覚せい剤も所持していたと一部報道機関により報じられていることについてふれておきます。
わたしたちは、この間、「薬物汚染」「乱用薬物」といった表現で、大麻と覚せい剤などを同一視し、一律に規制しようとする行政側の姿勢は非科学的な偏見に基づく誤りであると指摘してきました。わたしたちの主張は大麻を他の規制薬物と切り離して扱い、大麻に限り容認を要求しているのであり、覚せい剤の規制について異議申し立てをしているわけではありません。
従って、覚せい剤の所持による逮捕に対しての処分については問題にしておりません。
今回の事件についての新聞報道に対する質問
ところで今回の事件を報じた朝日新聞の記事(8月9日付け朝刊、「本誌記者を逮捕 大麻1.4グラム所持容疑」)では、自宅マンションから見つかった大麻約1.4グラムと、海外からの郵便物に入っていた大麻4.9グラムが押収されたことによる大麻取締法違反が容疑だと報じられています。一方、先ほどふれましたように一部報道機関(サンケイ新聞、及び東京新聞の8月9日付け朝刊)では覚せい剤約4.2グラムも自宅から押収されたと報じられています。
朝日新聞紙上では、何故か覚せい剤の件について公表せず、大麻についてのみ言及していますが、そこに釈然としないものを感じます。
もし大麻を覚せい剤と同じようなものと見なし、大麻の件だけ報じればそれで十分だと考えているのだとしたら、それは大きな誤りです。心身や健康への有害性・危険性、さらにはその作用から化学構造に至るまで、大麻と覚せい剤は全く別の存在です。それを同一視しているのだとしたら、報道機関として国民に誤った情報を流布していることになります。もしそうであるならば、このような誤った認識は改めるべきだと思います。
また、警察発表などの資料によると、覚せい剤の末端価格は0.03グラムで2000円、大麻の末端価格は1グラムで5000円となっています。今回、押収された覚醒剤は4.2グラムとのことから末端価格28万円、大麻は合計6.3グラムですから同3万1500円相当になります。薬物としての有害性・危険性、社会問題としての深刻さ、そして今回押収されたものの金額的な比較でも覚せい剤の方が大麻より遙かに重大な事件であることは一目瞭然であります。
最近、海上自衛隊や警察官が関係した覚せい剤事件が発覚し、社会的にも問題になっていることは周知の事実です。今回の A氏の事件は新聞記者というマスコミ内部の人間が逮捕されたということで社会的影響も大きなものがありますが、たとえそれが不祥事であろうと、新聞報道では事件の重大性に鑑み、不偏不党、公正に事実を報じるべきだと考えます。
ところが貴紙は、覚せい剤事件としての報道を全くしておりません。これでは自社のイメージダウンを隠蔽するために覚せい剤事件を報じずに、大麻事件としてのみ報じたのではないかという疑惑を懐かざるを得ません。穿った見方をすれば、大麻は覚せい剤ほどには有害な存在ではないことを認識した上で、大麻事件としてなら自社に与えるダメージも軽いという判断があったのではないでしょうか。
わたしたちは大麻の容認を求めて言論活動を中心にした草の根の市民運動を展開してきましたが、常々、マスコミの大麻報道が大麻を危険な「麻薬」と見なす取り締まり当局の一方的見解を何ら検証せずに報じ続けてきていることに疑問を懐いてきました。
今回の朝日新聞の報道(8月9日付け記事)は、そのようなケースとは若干異なりますが、覚せい剤の件をふれないことにより、事件の全体像を歪めて報じることになった点に於いて一種の情報操作だと考えることもできます。貴紙の報道姿勢の真意を聞かせていただきたく願い、以下のような質問をいたします。
どうして覚せい剤が押収されたという重大な事実を報じなかったのか、その理由を説明していただけないでしょうか。回答を文書、あるいはファックスでお送りいただければ幸いです。
以上
カンナビスト
(人権擁護の立場から大麻の容認を求める非営利の市民運動。1999年に結成され、現在の会員数437名。 http://www.cannabist.org/ 事務局住所 東京都世田谷区桜新町2-6-19-101 電話・FAX 03-3706-6885)
朝日新聞社広報室からの回答文書
「カンナビスト運営委員会様
2001年8月20日
朝日新聞広報室
前略 小社社長あてのお手紙を拝読いたしました。従来、社長あてのお手紙等につきましては当室が代わってご返事を差し上げています。貴会からのお尋ねの件につきまして以下のように回答させていただきます。
今回の大麻取締法違反容疑事件は、捜査当局の発表にもとづいて報じました。容疑者が小社記者であり、小社としての反省と方針を表明するため当室がコメントをだしました。
記事では、この事件の逮捕容疑が大麻取締法違反容疑であるため、発表された容疑内容を伝えました。今後、捜査当局の調べが進み、覚せい剤取締法違反容疑が固まり、立件されることになった場合には報じることにしています。
以上、回答とさせていただきます。よろしくお願いいたします。 早々
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