「代替刑」に関する報道記事

 下記の報道記事にあるように、現在、法務省では、懲役刑の代わりに社会奉仕命令などの「代替刑」を科せる制度についての議論が始まっています。薬物事犯については再犯防止のための教育プログラムなども検討課題となっています。

 実は、この問題は現実問題としては、大麻の「自由化」(わたしたちは非犯罪化と呼んでいます)と密接に関係しています。簡単に言ってしまうと、大麻の非犯罪化を日本で実現したいと考えている仲間にとって2006年の時点で最も具体性のある方策だと思われます。もちろん、代替刑に中に大麻が含まれるようになることが、即、非犯罪化というわけではありません。しかし、具体的な第一歩になることは確実と思われます。

 要点を絞って説明すると「大麻の所持や栽培で刑務所(≒拘置所)に入れるのを止める」ということになります。カンナビストとしては、2006年後半にかけて、代替刑の問題で法務省への働きかけなど具体的な行動を起こしていく予定です。

 

朝日新聞/2006年7月11日
懲役の代わりに社会奉仕──「代替刑」を諮問へ 法相──

 杉浦法相は、新しい拘禁制度の導入について26日の法制審議会(法相の諮問機関)に諮問する。刑務所に収容する懲役・禁固刑の代わりに社会奉仕命令など「代替刑」を科せる制度の創設に向け、その是非を問う。判決が確定していない被告など未決因をめぐっては、容疑を否認すると長期間身柄拘束が続くことから「人質司法」とも批判されている保釈のあり方を改善するための制度づくりも検討する。
 刑務所の収容率(04年末)は118%に達し、独居房に2人が暮らす例も珍しくない。法務省は、こうした過剰収容を改めるとともに、出所者がきちんと社会復帰できるようにして再犯防止につなげるため、刑法や刑事訴訟法の改正や新規立法も視野に入れる。
 「代替刑」としては、例えばごみ拾いや草刈りなどの社会奉仕命令のほか、薬物犯罪者なら、再犯に陥るパターンや薬の怖さを気づかせる薬物処遇プログラムを受ける命令が想定されている。
 こうした場合、受刑者に一定の行動の自由を認める一方、専用の宿泊施設や自宅への居住を義務づける▽全地球測位システム(GPS)を装置させて行動を監視する──などが想定されている。命令に従わなければ、刑務所に行くことになる。
 また、現在は未決因のほとんどが保釈されず、起訴後、一審判決までに保釈される「保釈率」は04年で約13%と低かった。
 刑事訴訟法では、請求があれば保釈するのが原則。ただ「被告が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」などは例外で、裁判所はこの条項に当たるとして保釈を認めない例が多い。こうした現状を背景に、例えば、保釈された後に口裏合わせなどをしたら非常に重い刑罰を科す▽保釈後、公判段階になって認否を覆したらペナルティーを科す──などを検討。「裁判官が保釈しやすい制度設計」(杉浦法相)をめざす。
 ただGPS装着などには反対論も根強く、検討課題がすべて実現するかは不透明な部分も残っている。



 

朝日新聞/2006年7月22日
ニュースがわからん! 代替刑ってどんな刑?
──懲役の代わりに社会奉仕も 欧米やアジア、20カ国以上で導入──

 ホー先生 法相が法制審議会に代替刑の導入を諮問するそうだが、「代替刑」とは何か?
  悪いことをした人に科す刑罰は、いまは刑法で6種類に決まっている。重い順に、死刑・懲役・禁固・罰金・拘留・科料。それぞれに没収も付け加えることができる。こうした身体の自由を奪ったり、お金を払わせたりする刑罰だけでなく、それに代わるものも科せるように選択肢を広げようというのが今回の動きだ。
  具体的には?
  例えば、懲役の代わりに、公園でのごみ拾いや草刈りなど「社会奉仕」を命じたり、性犯罪や薬物犯罪の再犯を防ぐ教育プログラムの受講を命じたりすることだ。
  そんなもの、「刑罰」と言えるのか?
  欧米やアジアなど20カ国以上で既に導入されている。例えば米国の裁判所は、万引きした有名女優に02年、視覚障害者やエイズ患者の赤ちゃんのために480時間の奉仕活動を命じた。韓国でも05年、カンニングした受験生に社会奉仕活動80時間を命じた判決がある。英国では福祉施設のペンキ塗りなどの例があるそうだ。
  外国のまねか。
  社会奉仕命令は、実は日本でも90年代に法制審議会で議論された。6カ月以下の懲役・禁固刑や罰金刑の代わりに導入する内容だったけど、「犯罪者の社会復帰がしやすくなる」という賛成論の一方で「ボランティア活動の障害になる」という反対論もあり、事実上、棚上げされたんだ。
  でもやっぱり、悪い人は甘やかさず、刑務所に行かせるべきでは?
  そういう考えだけではうまくいかなくなってきた。出所しては再犯に走る人も多い。刑務所だけに受刑者を矯正する役割を押しつけても限界があるだろう。それに、今回、代替刑の話が出てきた理由の一つに、刑務所の過剰収容がある。05年に実刑が確定した懲役受刑者は約3万4千人。5年前より5千人近く増え、刑務所は定員オーバーが続き、04年末の収容率は118&だ。独居房に2人で寝るケースもある。そんな事情も切迫しているから、罪の軽い人は、刑務所ではなく社会の中で更生させる案が再び出てきた。(谷津憲郎)


刑罰の種類と内容

死刑
命を奪う
懲役
刑務所に入れ、作業を行わせる。無期と有期(原則1カ月〜20年)がある。加重すれば最長30年
禁固
刑務所に入れるが、作業は行わせない。無期と有期(原則1カ月〜20年)がある。加重で最長30年
罰金
一定の金銭を取り上げる。原則1万円以上
拘留
拘留場(通常は警察留置場)に入れる。1日〜30日未満
科料
一定の金銭を取り上げる。1千万〜1万円未満


 

朝日新聞/2006年7月27日
新拘禁制、本格議論へ──代替刑など法相が諮問──

 杉浦法相は26日、新しい拘禁制度の導入の是非を法制審議会(法相の諮問機関)に諮問した。ただ刑務所や拘置所に収容する代わりに、社会奉仕命令などの「代替刑」を科せるようにして社会復帰を促進したり被告人を保釈しやすくしたりして被告人の権利を向上させる狙い。「厳罰化」だけに振れすぎた現在の検事政策を抜本的に見直す形だ。ただ、新たな人権問題につながる恐れもあり、法制審の議論には時間がかかりそうだ。(谷津憲郎)

 ■自宅拘禁
 保釈率を上げ、大都市の拘置所などの定員オーバーを軽減する。保釈後に罪証隠滅や逃亡の恐れが生じないように、自宅拘禁や出国禁止などを想定。自宅拘禁をどう実現するのか、対象者への全地球測位システム(GPS)の装着などが議論になりそうだ。
 ■社会奉仕
 道路清掃や老人ホームでの作業などの義務づけは、20カ国以上で実施されている。
 罰金を払いきれない人が刑務所に入って労役に服する例は91年以降増え続けており、04年は1日平均899人と、50年以降で最多。法務省は、社会奉仕命令の導入でこうした例を減らせるとみる。しかし、労役に服する例は既決因全体の1%程度。社会奉仕命令が「見せしめ」とならないかなどの課題が残る。

 ■中間処遇
 昼は一般市民と同様に生活して仕事を探しながら、夜は「ハーフウエーハウス」と呼ばれる鍵のかかる専用施設に拘禁される制度の導入が主眼。刑務所に閉じ込める「施設内処遇」と、保護観察による「社会内処遇」の中間に位置づけ、犯罪者の社会復帰を促す狙いがある。有職者の再犯率は約8%と、無職者に比べて5分の1だ。

 ■満期出所
 満期出所者は、出所後5年以内に再犯で刑務所に戻る率が約59%と、仮出所者の約37%に比べて高い。法務省は、特に再犯の恐れが高い薬物・性犯罪者に、裁判所の命令に基づいて教育プログラムの受講や治療、血液検査などを義務づけることを考えている。ただ、「罪を犯しそうな人間をあらかじめ拘禁・治療する」という保安処分の発想につながることから、反発も予想される。



 

東京新聞(chunichi web press)
特報 導入検討『社会奉仕命令』とは

 裁判官から被告に対し、懲役刑や禁固刑でなく、罰として福祉活動などを命じる諸外国の方式は「社会奉仕命令」あるいは「代替刑」と呼ばれるが、それが日本にも導入されるかもしれない。法務省では法制審議会のお墨付きが得られれば、来年の通常国会に法案を提出する方針というのだが、具体的に、どんな内容なのだろうか。

 「被告人には、二年間の老人介護活動を命ずる」。代替刑が導入されると、裁判官から、こんな判決が言い渡されるようになるらしい。こうした刑罰、実は海外ではおなじみで、この種の判決を言い渡された著名人も少なくない。

■著名人にも経験者続々

 例えば、映画「若草物語」などに出演した米国の有名女優、ウィノナ・ライダー。約五千五百ドル相当の服などの万引で起訴され、ロサンゼルス・ビバリーヒルズの地方裁判所から、計一万ドルの罰金・賠償金に加え、病気の子たちの施設での二十日間の社会奉仕活動を命じられた。逮捕の際、薬物を所持していたとして、薬物カウンセリングプログラムへの参加も命じられた。

 韓国でも粉飾決算の罪に問われた建設会社社長に対し、ソウル高裁から二百時間の社会奉仕命令が言い渡されている。

 裁判ではないが、サッカー・ワールドカップの決勝戦で、暴言を吐かれたとしてイタリア代表選手に頭突きを食らわせたジダン選手(フランス)も、国際サッカー連盟(FIFA)から三日間の社会奉仕命令と罰金七千五百スイスフランを命じられた。

 社会奉仕命令は、世界的にもずいぶんポピュラーなようだ。

 ノルウェーには、最高でも懲役一年となるような比較的軽い犯罪で有罪となった被告に対し、被告が同意した場合に限り、裁判官が、公共施設の修理、非政府組織(NGO)活動への参加などを命じることができる「社会内処遇命令」という制度がある。違反すると刑務所に収容される。

 フランスは、ちょっと変わっており、「公益奉仕労働刑」と「公益奉仕労働を伴う執行猶予」の二種類がある。被告が同意した場合に限り、裁判官が、地方自治体、国鉄、社会福祉施設、大学などでの作業を命じる点は両者共通だが、前者は、それ自体が刑罰であるのに対し、後者は執行猶予判決を受けた被告が対象−と微妙に異なる。

 そもそもフランスには、「実刑二年と執行猶予二年」といった、まず二年間の刑期を受け、その後さらに二年間の執行猶予があるという日本にはない判決内容が存在する。このため、このようになるらしい。違反者への制裁も、前者は義務違反という新たな罪に問われ拘禁刑や罰金刑を受けるが、後者は執行猶予取り消しになる。

 イギリスは「社会奉仕命令(非拘禁判決)」という制度。拘禁刑の罰則がある犯罪で有罪となった被告が同意すれば、公共施設の建設、清掃、社会福祉施設・病院での手伝い、交通整理などの業務を命じることができる。違反者には、罰金を科して命令を継続する場合と、命令を取り消し拘禁刑を言い渡す場合がある。

 ドイツのバイエルン州では「罰金刑未納代替自由刑の回避」という変わった制度を用いている。罰金刑を言い渡されたが支払い能力がない被告は通常なら拘禁されるが、動物園清掃や老人介護をすれば拘禁されないという制度だ。

 わが国では、今年一月、杉浦正健法相が発足させた「被収容人員適正化プロジェクト」の中で、社会奉仕命令導入論が急浮上し、早くも七月二十六日の法制審議会に諮問された。内情に詳しい関係者は「今回は法務省内で議論し尽くして法制審にかけたわけではない。任期中に道筋を付けたいという杉浦氏の強い思いを受けて、白紙状態に近い形で諮問された」と指摘する。官庁が内容をガチガチに固めて審議会を形骸(けいがい)化させてしまうケースが多々あることを振り返れば、審議委員への“白紙委任”は官僚支配からの脱却と言えなくもないが、法制審が実のある論議をしてくれればの話だ。

 前出の関係者は「法相が熱心になった理由は二つある」と説明する。「第一の狙いは犯罪者の社会復帰です。これは、少しでも早く社会の風に触れさせることで、刑務所を出所後の再犯を防ぐ。もう一つは、収容者が増えすぎて刑務所が満杯になっている現状をなんとかしたい。軽微な犯罪者まで刑務所にとじこめる余裕はないという切迫した事情もあるんです」

 導入された場合、ごくごく大まかに言って、次の二つのパターンが予想される。

 ■Aパターン・代替刑 社会奉仕するなら懲役刑を免除しますよ、という趣旨の判決が出されるパターン。懲役刑の代わりになるため「代替刑」と呼ばれる。懲役か社会奉仕かの選択を裁判官が決める方式と被告が決める方式の両方が考えられる。


 ■Bパターン・社会奉仕命令 懲役、禁固、罰金という現行の三本立ての刑罰に、新たに「社会奉仕命令」を加え、四本立てとするパターン。

 ある法曹関係者が言う。「実は、法務省はAパターンをめざすのか、Bパターンなのかという大枠も決めていない。まさに法制審メンバーの考え方しだい。それだけに法制審の責任は重い」

 ところで、今回、杉浦法相は「中間処遇」や「保安処分」も法制審に諮問した。

 「中間処遇」は受刑者の社会復帰を促すため、満期前にマンションや自宅に移すもの。その際、該当者に衛星利用測位システム(GPS)を付けるといった人権制約的な方法の是非とか、市民感情などが論点となりそう。また、かりに「懲役五年の満期」の場合、「刑務所四年、中間処遇一年」という“内側方式”をとるのか「刑務所五年、中間処遇一年」という“上乗せ方式”をとるのか。後者なら、新たな人権制約となるため、重要なポイントだ。

 「保安処分」は、性犯罪者や薬物犯罪者への出所後教育などが考えられるようだが、出所後も公的施設に収容することや血液検査の義務付けなども意味する言葉だけに、議論を呼びそうだ。「保安処分で日弁連を刺激してしまったら、社会奉仕命令の方までおじゃんになる。だから、法制審がハードなものに手を出すはずがない」との見方もあるが、法制審がフリーハンドを握っているのも事実だ。

 日弁連刑事拘禁制度改革実現本部委員の海渡雄一弁護士は「満期出所者の再犯率は仮出所者を上回っており、極力、刑務所外に出して更生させることには賛成だが、労働が“見せしめ”的にならないよう注意すべきだ。社会奉仕活動をしている市民から反発を受けない工夫も必要だ」と話す。

 かつて行刑改革会議(法相の私的諮問機関)メンバーとして刑務所改革に携わった菊田幸一弁護士は刑罰厳罰化の現状を念頭に「過剰拘禁(過剰収容)の解消策として、代替刑や社会奉仕命令が論じられているが、そもそも犯罪は増えておらず、過剰拘禁はつくられたものだ」と、疑問を投げかけている。

<デスクメモ>

 社会奉仕でも米国の女優のように、自分の“得意技”を生かした形がいいのでは。ハイテク犯罪などで有罪判決を受けた人がシステム開発者と「疑似いたちごっこ」を演じてハイテク防犯度を高めるとか。昔、説教泥棒というのがいたが、こういう人に全国を説教行脚してもらうのもいい。無論、盗み抜きで。(蒲)