「ダメ。ゼッタイ。」の大麻に関する見解には根拠がない
―情報公開請求から明らかに

「ダメ。ゼッタイ。」((財)麻薬・覚せい剤乱用防止センター)の大麻に関する見解には
根拠がないことが厚労省への情報公開請求から明らかになりました

2004年5月2日 ●●(カンナビスト会員)

EU(欧州連合)をはじめとする世界の主要先進国では、大麻は刑事罰で罰するほどには有害なものではないという見解が大勢を占めるようになってきました。2004年1月には、イギリスで大麻の所持を逮捕に相当する違反行為とはみなさないという法案が正式に可決されました。この背景には、イギリス国会委員会によって実施された調査結果から、大麻が使用者の健康や公共の安全に及ぼす有害性や危険性は、それほど高くないことが明らかになったことがあります。同様な結果がカナダやニュージーランド政府の特別委員会によっても公表されています。

ところが日本では、いまだに大麻が危険なものだという偏見がまかり通っています。裁判でも、そのような偏見に基づいて判決がなされ、被告を有罪にしています。どうして世界の「常識」とかけ離れてしまった偏見が、日本では改められないのでしょうか?

そのような疑問から、まず大麻についての国の見解を調べてみました。いろいろ調べていくなかで、「(財)麻薬・覚せい剤乱用防止センター」という機関が、大麻についての誤解や偏見を広めている大元であることが分かってきました。そのホームページには、大麻の「有害性」なるものが具体的に列挙され、「社会問題の元凶」などと言われています。

「(財)麻薬・覚せい剤乱用防止センター」は厚生労働省所管の公益法人であり、そのホームページ(「ダメ。ゼッタイ。」ホームページ(http://www.dapc.or.jp/))は厚労省の委託を受けて運営されています。以下は「ダメ。ゼッタイ。」のホームページからの引用です。

大麻を乱用すると気管支や喉を痛めるほか、免疫力の低下や白血球の減少などの深刻な症状も報告されています。また「大麻精神病」と呼ばれる独特の妄想や異常行動、思考力低下などを引き起こし普通の社会生活を送れなくなるだけではなく犯罪の原因となる場合もあります。また、乱用を止めてもフラッシュバックという後遺症が長期にわたって残るため軽い気持ちで始めたつもりが一生の問題となってしまうのです。社会問題の元凶ともなる大麻について、正確な知識を身に付けてゆきましょう。
(参照:http://www.dapc.or.jp/data/taima/1.htm

この文章を読むと、誰でも大麻が危険な薬物だという印象を受けるはずです。しかし、不自然なことに、この説明には情報ソースが一切記載されておらず、国内で確認または立証されたかどうかも分かりません。

そこで「情報公開法*」に基づく情報開示請求をすることで、大麻の身体的影響について、日本国内に根拠となる事例があるのかを厚生労働省に確認することにしました。つまり「ダメ。ゼッタイ。」の説明には、国内にその根拠があるのかどうか国に確かめてみようとしたのです。


*情報公開法
正式名称「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」。開示請求を受けた省庁は、外交・防衛の機密、犯罪の捜査に関するもの、個人の病歴などの例外を除き原則的に公開しなければならない。開示決定までの期間は30日以内(必要な場合は60日以内)。2001年4月施行。

 

【大麻が原因の二次犯罪に関する請求】

まず、大麻が「犯罪の原因となる場合もあります」に、日本国内の事例があるのかを確認するため、厚生労働省に以下の内容で情報開示請求をしてみました。

・日本国内で発生した、大麻摂取による精神錯乱が原因の二次犯罪に関する一切の情報。但し、薬物事犯、アルコールを含む他の薬物との併用による事例、余罪としての大麻所持等を除く。

【拡大】

ところが、約30日後に「行政文書不開示決定通知書」が送られてきました。

不開示の理由は「開示請求に係る行政文書を保有していないため」でした。つまり大麻を摂取したことにより精神錯乱を起こし人を傷つけたり、事故を起こしたりしたような二次犯罪があったというような記録はゼロだというのです。

これにより、「日本国内で大麻が原因の二次犯罪は過去に一例も確認されていない」ことを厚労省が認めたということになります。

 

【大麻の身体的影響に関する請求】

 次に、以下の記載内容を見てください。

■大麻の身体的影響(詳細)
脳に対して;
心拍数が50%も増加し、これが原因となって脳細胞の細胞膜を傷つけるため、さまざまな脳障害、意識障害、幻覚・妄想、記憶力の低下などをを引き起こします。また、顕著な知的障害がみられます。
(参照:http://www.dapc.or.jp/data/taima/3-3.htm


*1971年にイギリスの研究グループにより「マリファナの常習は脳に損傷を起こす」という研究結果が発表されましたが、すべての対象者がマリファナ以外の薬物を使用しており、比較グループの適正及び診断技術に疑問があると非難された上、その後の各国での数度にわたる同様の研究で同じことが証明されず、現在は大麻による脳の構造的損傷に関する論争にはほぼ終止符が打たれています。

これについても、日本国内に確認された事例があるのかを確認するため、厚生労働省に以下の内容で情報開示請求をしてみました。

・日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の脳の構造的損傷に関する一切の情報。

【拡大】
 

しかし、これについても「行政文書不開示決定通知書」が送られてきました。

不開示の理由は、二次犯罪についての請求と同じく「開示請求に係る行政文書を保有していないため」です。これについても前項同様、大麻摂取が原因で脳の構造的損傷が起きたというケースはゼロだということを厚労省が認めたということになります。

さらに、いろいろなケースについて質問をしてみました。以下の17件の請求についても同様に「開示請求に係る行政文書を保有していないため」に不開示となりました。

  • 日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の白血球の減少に関する一切の情報。
  • 日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の免疫力の低下に関する一切の情報。
  • 日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の副鼻腔炎に関する一切の情報。
  • 日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の咽頭炎に関する一切の情報。
  • 日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の気管支炎に関する一切の情報。
  • 日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の肺気腫に関する一切の情報。
  • 日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の慢性気管支炎に関する一切の情報。
  • 日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の心不全に関する一切の情報。
  • 日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の不整脈に関する一切の情報。
  • 日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の胸痛に関する一切の情報。
  • 日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の狭心症に関する一切の情報。
  • 日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の胎児の大麻中毒に関する一切の情報。
  • 日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の流産に関する一切の情報。
  • 日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の死産に関する一切の情報。
  • 日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の精子数の減少に関する一切の情報。
  • 日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の月経異常に関する一切の情報。
  • 日本国内の医療機関により確認された、大麻摂取が原因の肺癌に関する一切の情報。

これらの厚労省からの返答から、「『ダメ。ゼッタイ。』などで述べられている大麻の身体的影響について、日本国内で確認された症例が一例もない」ということが分かりました。これらは厚労省の正式な返答ですので、「ダメ。ゼッタイ。」の説明には遺憾なことに根拠がないということが明らかになったのです。

 

【海外の最新情報に関する請求】

 「日本国内の事例がないかもしれないが、大麻の危険性については海外の研究や文献で確認されているのではないか」と考える人もいるかと思います。しかし、最近の海外の政府機関などが発行している信頼できる文献を見ると、大麻の有害性は低いという結論で一致しており、少量の個人使用については非犯罪化する国が増えています。

 そこで、こうした事実について厚労省がどのような認識を持っているのか確認するため、海外の最新の研究報告書や非犯罪化の事例の厚生労働省内での扱いについても開示請求しました。以下に質問項目を列挙します。(実際の開示請求書には英原文題名、英語による正式機関名が付記されています)

  • 1999年の米国アカデミー・プレス、医学研究所、神経化学および行動科学局の報告書「マリファナと医学---科学的根拠の評価」についての厚生労働省内の連絡・報告・検討に関する一切の情報。
  • 2002年の違法薬物に関するカナダ上院特別委員会の報告書「大麻:要約レポート:カナダの政策に関する見解」についての厚生労働省内の連絡・報告・検討に関する一切の情報。
  • 2002年の英国下院、英国下院内務委員会の「内務委員会第3報告書」についての厚生労働省内の連絡・報告・検討に関する一切の情報。
  • 2001年の総理府ガンジャに関するジャマイカ国内委員会の「ガンジャに関する国内委員会報告書」についての厚生労働省内の連絡・報告・検討に関する一切の情報。
  • 1999年のスイス公衆衛生局、スイス連邦薬物問題委員会の報告書「スイス連邦薬物問題委員会による大麻レポート」についての厚生労働省内の連絡・報告・検討に関する一切の情報。
  • 1998年のニュージーランド議会健康特別委員会の報告書「大麻の精神衛生上の影響に関する調査」についての厚生労働省内の連絡・報告・検討に関する一切の情報。
  • 1994年の豪州保健高齢福祉省、オーストラリア政府出版サービスの「オーストラリアにおける大麻に関する立法上の選択肢:連邦政府からの委託による報告書/州薬物政策閣僚評議会」についての厚生労働省内の連絡・報告・検討に関する一切の情報。
  • 2002年のジョーゼフ・ラウンドトリー財団の「クラスB薬物としての大麻の取り締まり」についての厚生労働省内の連絡・報告・検討に関する一切の情報。
  • 2000年の英国警察財団の「薬物と法律:1971年の薬物誤用法に関する自主調査報告書」についての厚生労働省内の連絡・報告・検討に関する一切の情報。
  • 「少量の大麻製品の非常習的な自己使用目的の行為については、訴追を免除すべきである」と判示した、1994年3月9日ドイツ連邦憲法裁判所第2法廷決定についての厚生労働省内の連絡・報告・検討に関する一切の情報。
  • 1997年の世界保険機関、精神衛生および薬物乱用防止局の報告書「大麻:健康に関する展望と研究課題」についての厚生労働省内の連絡・報告・検討に関する一切の情報。
  • 2003年3月オランダで施行された新しい連邦規定により、薬局が合法的に医療大麻を仕入れ、医師の処方箋がある患者に対する販売することを可能としたことについての厚生労働省内の連絡・報告・検討に関する一切の情報。
  • 2003年2月、ベルギー議会が多数決で、レクリエーション・ユーザーの5グラム以下のマリファナ所持、及び一本までのプラント栽培を認め、刑事罰を適用しないことを決定したことについての厚生労働省内の連絡・報告・検討に関する一切の情報。
  • 2001年7月、カナダ政府が、患者に条件付きで医療目的でのマリファナの栽培と所持を認める法令を最終承認、7月30日から実施したことについての厚生労働省内の連絡・報告・検討に関する一切の情報。
  • 2001年1月、ベルギー政府が大麻の個人使用を原則として訴追しない方針を閣議決定したことについての厚生労働省内の連絡・報告・検討に関する一切の情報。
  • 2003年10月イギリス下院議会が大麻の法的分類をクラスBからクラスCに引き下げ、大麻の所持を「逮捕に値しない法律違反」とすることを承認し、2004年1月29日より施行開始したことについての厚生労働省内の連絡・報告・検討に関する一切の情報。
【拡大】

以上16項目の質問に対し、最後のイギリスの事例に関する開示請求を除き、すべて「開示請求に係る行政文書を保有していないため」に不開示となりました。前述したように質問項目に該当する行政文書を保存していないということは、それらについての情報を何も持っていない、知らないということを意味しています。

イギリスの事例についても「2002〜2003年海外情勢報告」なる小冊子の、ほんの一部分であり(現在開示手続中)、それが「連絡・報告・検討に関する一切の情報」とのことです。

これにより「政府当局は海外の最新の研究報告書や非犯罪化の事例について連絡・報告・検討は(ほとんど)していない」ということが遺憾ながら明らかになりました。

 

【国内の研究に関する請求】

また、以下の開示請求も同時に行いました。

・日本国内の研究機関によって行われた、大麻が人間に及ぼす危険性についての研究に関する一切の情報。但し、動物実験とそれに基づくもの、海外の研究の翻訳・海外の研究を単にまとめたものは除く。

これについては

  • 「大麻乱用者による健康障害」(依存性薬物情報研究班)のうち、「IV 大麻精神病」の部分
  • 「大麻乱用事例の特徴」(依存性薬物情報研究班)

が該当する行政文書に当たるとのことです(他は日本国内の研究ではないとのことです)。本件については「法第13条の規定に基づき第三者から提出された意見書の検討等を行うことにより、開示・不開示の審査に時間を要するため」に開示決定期限を30日間延期されました。


*情報公開法条文:
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO042.html

今後、開示されるであろう内容については

  • 大麻精神病とされている疾患は大麻が原因であると証明されたものなのか
  • 大麻精神病とされている疾患は他の精神疾患(分裂症など)ではないと証明されたものなのか

といった点に注目したいと思います。

また、場合によっては開示された行政文書に基づき新たな開示請求を行う予定です。

 

【まとめ】

冒頭でふれたように、「(財)麻薬・覚せい剤乱用防止センター」は厚労省所管の公益法人であり、そのホームページ(「ダメ。ゼッタイ。」ホームページ(http://www.dapc.or.jp/))は厚労省の委託を受けて運営されています。そこで大麻は危険な薬物であると述べているからには、それを裏付ける確かな情報があって然るべきです。それを確かめようとして上記のような36件の情報開示請求を厚労省に出したのですが、34件が「開示請求に係る行政文書を保有していないため」に不開示となりました。

結局、「ダメ。ゼッタイ。」で述べられている大麻が危険な薬物だという見解には、裏付け、根拠がないということが明らかになりました。国民に対し「社会問題の元凶ともなる大麻について、正確な知識を身に付けてゆきましょう」などと呼びかけていながら、自らの知識の方が不確かだったという無責任さには到底、納得できません。

「(財)麻薬・覚せい剤乱用防止センター」は、国民の税金を使いながら、このような不確かな情報・知識を広め、大麻についての誤解と偏見を助長し続けていく姿勢を早急に改めるべきではないでしょうか。

また国(厚労省)は、大麻が人体に与える影響に関する海外の最新の研究報告書や非犯罪化の事例について、連絡・報告・検討など(ほとんど)していないということが明らかになりました。EU(欧州連合)をはじめとする世界の主要先進国で行われた研究や調査について情報がないというのでは、自らの職務について怠慢の誹りを免れません。

厚労省は、一方で大麻取り締まりを行っていながら、大麻の有害性がそれほど高くないということが明らかになってきた海外の新しい研究や調査のことは知らないというのでは、公正さを欠いているのではないでしょうか。厚労省がそのような硬直した官僚組織体質を改め、大麻問題について公正な検討をはじめるよう望みます。

 

【本件に関する問い合わせ先】

カンナビスト事務局
〒154-0015 東京都世田谷区桜新町2-6-19-101
TEL/FAX: 03-3706-6885
電子メール: info@cannabist.org
ホームページ: http://www.cannabist.org/