日本の大麻取り締まりは非人道的な悪法・悪政です。いま世界的に、大麻には「有害性」・「危険性」がそれほどないと見直され、自由化・容認化が進んでいます。大麻(マリファナ)は「麻薬」や覚せい剤とは成分も全く違う有害性の少ない植物(ハーブ)なのです。ところが日本ではどれも「乱用薬物」と一括りにされた上、大麻については半世紀も前のGHQ占領下に作られた大麻取締法を楯にして、過剰ともいえる重罰がまかり通っている。近年、大麻自体の弊害はそれほど大きくないというのが国際常識になっていますが、日本では、「大麻事件」で逮捕・投獄されたり、失業・社会的偏見に晒されるなど、公正なバランスを欠いた重い処罰が行われています。
2002年はサッカー・ワールドカップの年でもあり、広く世界に目を開く契機であります。日本は、このまま誤った大麻政策を鎖国的に続けるのでしょうか。大麻取り締まりという名の下に、普通に生活している一般国民を大麻を所持していた、栽培していたからといって逮捕し、犯罪者に仕立て上げる愚挙を改めないのでしょうか。役人も裁判所も政治家、マスコミも、先進国の名に恥じない世界水準に見合った良識を示すべき時期に来ているのではないでしょうか。
大麻自由化の流れはよく知られているオランダだけではなくドイツ、フランス、デンマーク、イタリア、スペインなどEU(欧州連合)諸国に広がっている。そしていまイギリスでも大麻自由化が現実のものになろうとしています。
(カンナビスト運営委員会)
イギリスで急速に進む
大麻自由化(非犯罪化)の動き |
2001年を振り返ってみると、世界レベルではここ数年間で最も大麻自由化が進んだ年と言えるのではないだろうか。今年1月、ベルギー政府は少量の大麻の個人使用を訴追しない方針を決定した。7月にはカナダが世界で初めて大麻の医療使用を合法化した国となった。そして、イギリスでは夏頃から大麻自由化の動きが急速に進み、来年春には非犯罪化が実現されようとしている。これまでCannabis
Newsのコラム、HPのニュース速報、掲示板等で断片的に伝えてきたが、この機会に今年一年間のイギリスの動きを総括してみたい。
●ロンドン警視庁が少量の所持を容認
ことの始まりはロンドン警視庁の発表だった。6月15日、ロンドン警視庁はサウスロンドン地区において、少量の大麻所持および使用を逮捕しないという方針を発表した。警察官は逮捕する代わりに、違反者に対して警告を与える。大麻は押収され、違反者は書類に署名しなければならない。この結果、行政記録には残るが、犯罪記録としては残らない。警告を受け入れなかった場合は逮捕される。こうした処置は7月1日より実施されている。
ロンドン警視庁は少量の大麻所持および使用は逮捕に値しないという見解を示しており、逮捕を止めることで、1件あたりの処理に要する時間を最大6時間削減することができるという。このため、より重大な犯罪に時間を割く方が賢明という判断に至ったのである。スティーブンズ警視総監は、「クラック(コカイン)ユーザーが盗みを働くのは良くあることだが、大麻を得るために犯罪に走る者など見たことがない」とコメントしている。イギリスでは昨年一年間に96,000人が大麻関連で逮捕されている。
7月1日にこの新しい方針が実行に移されると、ジョイント1本の価格は約200円程度と1パイント(約0.5リットル)のビールと同等の価格にまで下落した。また、車椅子に乗った男性がブリクストン警察署の前でジョイントを吸いながら、大声で叫ぶなどして目の前を通り過ぎる警察官を挑発した結果、20分後にようやく警察署に連行されて初めて警告を受けたというエピソードも伝えられている。
●政治問題へと発展、議員らが関心を示す
ロンドン警視庁の発表を受けて、政府関係者や議員らが、次々と大麻問題について関心を示すようになり、イギリス全土においても同様の処置を取るべきという声が上がりはじめた。内務大臣デービッド・ブランケットが条件付きではあるが支持を表明したことにはじまり、保守派のトーリー党の幹部らが次々と議会での審議を求める等、このころから急速に政治色が強まってきた。保守党の指導的人物ピーター・リリーは免許制度の下で合法的な販売を可能とするように求め、元麻薬問題担当長官モー・モウレムは全国的な非犯罪化を主張、さらに販売も認めずに市場を犯罪者の手に委ねたままにすることは不合理であると主張した。現麻薬問題担当長官キース・ヘラウェルも就任当時に主張していた「踏み石理論」を否認し、非犯罪化に一定の理解を示した。
この時点では、まだ、ブレア首相は大麻の非犯罪化や再分類は全く考えていないと否定していたが、やがて、内務大臣デービッド・ブランケットは議会での審議を認め、政府内でも本格的に議論が開始されることになる。
●国際協定は非犯罪化の足かせにならない
8月末、イギリスのドラッグ法改正慈善団体DrugScopeが、国際協定への準拠という観点からヨーロッパ諸国のドラッグ法についてまとめた報告書『ヨーロッパのドラッグ法 --- その政策の余地』を発行した。
これまで、国連協定によって大麻を非犯罪化するような法改正は制限されていると信じられてきた。しかし、今回の調査によって、各国政府が国連協定に厳しく縛られているという認識が払拭され、各国が国連協定の範囲内でそれぞれ柔軟に独自のドラッグ法を施行できることが示された。
報告書では、EUの6カ国、フランス、ドイツ、オランダ、イタリア、スペイン、スウェーデンのドラッグ政策について調査しており、各国は国際協定に違反することなく、以下の法改正が可能という結論を下している。
ドラッグ所持に対する制裁として禁固刑を廃止する
ドラッグ所持に対して民事刑罰(罰金など)を取り入れる
少量の供給行為を民事事件として取り扱う
(詳細は CANNABIST Internet『ニュース速報』参照)
●イギリス初のコーヒーショップがオープン
9月14日、医療マリファナ協同組合の設立者コリン・デービスがイギリスで最初のカナビス・カフェ「Dutch Experience」(オランダ体験)をオープンした。デービスは事前にこの計画を公表しており、マンチェスター警察は公約通りオープン直後に強制捜査を実施、カフェを閉鎖した。この際、デービスとカフェの従業員が販売目的での所持および規制薬物供給への関与の容疑で逮捕されている(詳細についてはCannabis
News 6号を参照)。
しかし、一旦は閉鎖されたものの、カフェはその後も営業を続けている。平日の昼間は50人、夜になると100人以上がカフェに詰めかけるという。議論の最中にある問題ということで、マンチェスター警察も慎重な対応を取らざるを得ない状況にあったようだ。その後、メディアに大きく取り上げられたことが、大々的な宣伝を伴う挑発的行為と見なされ、11月に再度強制捜査を受けた。オーナーのデービス他2名が規制薬物の供給、9人の客が所持の容疑で逮捕されたが、店は当日すぐに再開している。
カフェではアルコールを扱っていないため、パブに比べて近所の評判も良いという。客は皆、満足感に満ちており、とてもフレンドリーで、喫煙後に空腹感をおぼえた客が食事に訪れるのを地元の飲食店は歓迎している。
地元の下院議員クリス・デービスも、「アルコール以外のものを試したいという人々の希望を叶えることができ、よりハードなものに向かわせることもないのだから、声援を送りたい気持ちだ」とDutch Experienceを公に支持している。コリン・デービスはさらにスコットランド東部のダンディー地域にも同様のカフェをオープンする計画を進めている。元ユーザーであることを認めている地元の下院議員ケイト・マクリーンやジョン・マカリオンは、法律が緩和された暁には、スコットランドにもこうした施設ができるのを歓迎すると語っている。
●政府が大麻の再分類を発表、非犯罪化実現へ
そして、遂に30年間にわたり施行されてきた大麻禁止法が、はじめて緩和されることになった。10月23日、内務大臣デービッド・ブランケットは、大麻を従来のクラスBから抗鬱薬やステロイド等と同じクラスCに再分類すると発表した。これにより、少量の大麻を所持または使用しても逮捕されることはなくなり、警告や裁判所に出頭すること以外に法的処分を受けずに済む。この法改正は議会を通さずに、行政命令という形で来年春より実施される。
一方、販売の可否については依然として白熱した議論が続いている。前出のDrugScopeが実施したイギリスの警察、裁判所、保護観察所等300の組織に対する調査では、81%が大麻をパブやコーヒーショップ等の認可を受けた小売店で販売可能とすべきと答えており、こうした配給システムを直ちに実現するよう求めている。また、11月末にはドラッグ誤用に関する諮問協議会が大麻の合法化と認可を受けたコーヒーショップを通じた大麻の販売を求める報告書を発行している。報告書の著者である科学ジャーナル『Drug
and Alcohol Findings』(ドラッグとアルコールに関する発見)編集者マイク・アシュトンは、「少量の大麻の所持と使用に対して寛大な政策を取ることが大麻の使用を増加させることはない。実際、異なる法律制度が大麻の使用に影響を与えることは少ない」としている。また、「大麻と他のハードドラッグのつながりを断つことができ、市場そのものを分離できる」と指摘しており、さらには、大麻がアルコールに取って変わることにより、個人や社会に対する害も軽減される可能性があると続けている。
●最後に
約半年間の間にイギリスの状況は大きく変化し、来年春には非犯罪化が実現されようとしている。直接的には政府関係者や議員らの関心を集めたことが、このような急展開につながったと考えられる。国民が大麻問題に関心を見せはじめたことを察知し、票の獲得につながると判断するやいなや、これまでの態度を豹変させた政党も多く、こうした即物的な姿勢に不快感を示す人々も多かったようだ。しかし、議員を動かしたのは国民の力であったことに間違いない。昨年10月にガーディアン紙が実施した世論調査では、イギリス国民の80%が非犯罪化に賛成している。このように国民からの圧倒的な支持を得ているのも、正しい情報が一般のレベルにまで知れわたり、大麻に対する理解が十分に得られているからだろう。
また、最初のきっかけとなったロンドン警視庁の良識ある判断にもとづく方針転換の発表も賞賛に値する。単なる法の執行者という態度に終始することなく、何を優先すべきか、国民にとって何が最大の利益かを、自発的に判断して方針を決定したこと。そして、こうした決定を内密に処置したり、外部からの軋轢に対して臆することもなく、公に発表するという姿勢に敬意を表したい。
こうしたイギリスでの動きをリアルタイムに目の当たりにすることができるのは、我々としても勇気づけられると同時に、日本での自由化のムーブメントの活性化にもつながることだろう。日本とイギリスの状況を比較してみると、まだまだギャップが大きく、とても同じように真似することはできそうにないが、学ぶべきところは多い。今後の動向を見守り、そして参考にしながら、ここ日本でも独自のやり方で非犯罪化への活路を見出していきたい。
(麦谷尊雄)
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