クリス・コンラッド インタビュー
『CannabisNews』第5号(2001年3月15日発行)より


クリス・コンラッド インタビュー
マリファナ・医療マリファナ・産業ヘンプの合法化を巡るアメリカの経験
(2000年8月22日 The Week Online with DRCNet, Issue#150より)
 クリス・コンラッドは10年以上にわたり、カリフォルニア州でのカナビス法改正に向けた活動をつづけている。コンラッドは『ヘンプ---未来への命綱』(Hemp: Lifeline to the Future)の著者であり、『打ち砕かれた人生---アメリカのドラッグ戦争に関する叙述』(Shattered Lives: Portraits from America's Drug War)の共著者であるとともに、有名なジャック・ヘラーの『裸の王様』(The Emperor Wears No Clothes)最新版の編集も手掛けている。また、産業ヘンプの合法化、患者への医療マリファナの供給、成人によるマリファナ使用の合法化という3つの方向からカナビス法改正に向けた戦略を打ち出しているカナビス・ヘンプ・ビジネス・アライアンス(BACH)の創設者でもある。
 コンラッドは、カリフォルニア州での医療マリファナ関連の裁判においても、専門家として数多くの証言を行っている。豊富な研究資料に裏付けされた知識に加え、カナビス栽培の実地体験を数多く積んできている。アムステルダムのヘンプ・カナビス・ハッシシュ博物館の元館長であり、世界最大のマリファナ種子供給業者の一つであるセンシ・シーズの中央種子銀行で学んだ経験を持つ。スイスでは6エーカー〔約24,281m2〕の屋外栽培を監督し、ドイツとスイスでもヘンプの生産を観察してきた。
 今回、The Week Online(以降WOLと略する)は、ロサンゼルスで行われたシャドー・コンベンション〔コラムニスト、記者、政治家、政治評論家、公官、市民などによる公開討論会、今回は政治献金問題、貧困、ドラッグ戦争がテーマとなっている〕の会場でコンラッドに対するインタビューを行った。
(「マリファナ」「医療マリファナ」「産業ヘンプ」は、どれも大麻という同じ植物のこと。これまで規制されていたため用途により別の名称を付けられてきた)


WOL: あなたはヘンプ問題に関して、医療マリファナと一般的な使用を含めた3部構成の政策を持っているということですが、ヘンプ活動家の中にはマリファナ法改正に手を貸す意志などなく、それに関わること自体が命取りになると言う人もいます。

コンラッド  私が最初に活動をはじめた頃は、ヘンプ問題など楽勝だと思っていました。ヘンプでハイになることはない、ヘンプは一万年前から使われてきた、議会はもともとヘンプを禁止することを意図していなかったという事実を政府に説明すれば十分だと思っていました。しかし、それはとんでもない間違いであることに気づきました。連邦政府はマリファナが合法化されるまでヘンプを阻もうとしていることがわかっただけでなく、これら2つの問題を分離するように代替案を提案しても全てマイナスの結果となってしまうのです。
  まず、最初に断わっておきますが、私はそのような見方が間違っているとは思いません。ヘンプとマリファナは同じものではありません。連邦政府はヘンプを抑制するための口実にマリファナを利用しているのだと思います。もし、彼らの基準に従ったとすれば、通電された10フィート〔約3m〕の鉄条網や投光照明灯で囲まれ、武装した警備員が配置されたファシズム的環境の下でヘンプを栽培することになるでしょう。私は二人の最も有名なヘンプ栽培者、ジョージ・ワシントンやトーマス・ジェファーソンが思い描いていた、自由で人間の尊厳が不可欠とされていた民主主義社会に生きることを望んでいるのであり、ファシズム的環境下でヘンプを栽培したくなどありません。もし、麻薬取締局(DEA)との交渉を通じて実現にこぎ着けたとしても、結果的には刑務所のような環境で栽培することになってしまうでしょう。

WOL: 活動家の中には、AMA(Americans for Medical Rights:医療の権利を求めるアメリカ国民)が起草した医療マリファナ法案は患者が所持できるマリファナの量にきびしい制限を課していると非難する者もいます。ここカリフォルニア州でも検察官がこうした制限を根拠に、患者Xや患者Yは医療目的としては多すぎる量を所持していると主張するなど、事態が悪化しているといいます。

コンラッド  カリフォルニア州の法律は患者が所持または栽培できるマリファナの量や対象とする症状に制限を設けてはいません。我々は症状の一覧に制限を設けたくありませんでした。何故なら、全ての症状についてわかっていないからです。提案215〔1996年11月にカリフォルニア州で住民投票にかけられた医療マリファナを合法化する提案、56%の賛成票を得て可決された〕にマリファナの量が記載されていないのは、患者には大量のマリファナが必要だからです。連邦政府は8人の患者に年間6ポンド〔約2.7kg〕から8ポンド〔約3.6kg〕のマリファナを提供しています。しかし、「Sea of Green」と呼ばれる最新技術〔水耕法や園芸術を駆使した室内での卓上園芸システム〕を用いて栽培している患者は、他の州で制限されている量を大きく超えて小さいプラントを大量に育てることができます。オレゴン、アリゾナ、アラスカ、ワシントン、ネバダの各州では、AMRが起草した提案によって患者が所持できる量が制限されていることに加え、定期的に出頭することが要求されています。これは整合性という点では、患者と医師の双方にとって不公正な制限です。
  もし、全ての患者が2オンス〔約57g〕しか所持できないとしたら、それもまた不公正な制限だと思います。また、プラントを3本しか栽培できないとしたら、6ポンドから8ポンドといった十分な量を収穫することはできません。既に多くの人々がSea of Greenを使った栽培を実践しているにも関わらず、最も実用的な方法で栽培できない、必要量を得られない、最も安全な方法で使用できない、必要な症状全てに適用することができない、そして、どうにかして必要量を得ることができたと思ったら逮捕されてしまう。何故こんなことになってしまっているのでしょう?
 それは今やこうした住民発案にも大きな影響を与えるようになったフォーカスグループ〔番組・コマーシャル・製品などの開発に有用な情報を得るため、司会者のもとに集団で討議してもらう数人の消費者グループ〕にとって納得のいく数字だからです。しかし、患者や医師、看護人、あるいは研究者には納得のいかないものです。私が最も重大かつ基本的な問題があると考えている理由は正にここにあります。彼らはメッセージを打ち出すことに注力していますが、提案215はメッセージを打ち出すことが目的ではなく、患者を刑務所から遠ざけるためのものだったはずです。

WOL: 提案215が可決した後、ある意味で状況が悪化していると言われましたが、それはどういうことですか?

コンラッド  法律上あるいは患者の保護といった意味では悪くなっているとは言えません。実際、患者が370本のプラントを栽培していた事件で不一致陪審となったり、240本、89本、131本のプラントを栽培した患者がそれぞれ無罪放免となった事例があります。われわれが困窮しているのは運動という側面においてです。提案215が可決する以前は、皆が一体となって活動してきました。私たちはBACHの3部構成の政策をもとにした教育プログラムを掲げ、皆が一緒に進み、その一歩一歩がそれぞれの目的に貢献することを知っていました。しかし、提案215が可決したことによって、医療を目指す人々、産業を目指す人々、そしてその他もろもろの人々の間に大きな溝ができてしまいました。その結果、生じてしまった分裂やにがい経験は、この州ではまだ癒えていません。私たちが犯した間違いのひとつは、勝利を修めた後に何が起こるかを理解せずに運動をはじめてしまったことです。全国的に波を起こすことができれば、それで十分だと思っていました。私たちは政治的な争いや法的闘争に巻き込まれることを理解していなかったのです。ドラッグ戦争の兵士たちが患者をそれ以外の運動から分断することに長けていることには気づいていませんでした。彼らの「患者の後に合法化主義者の影が見え隠れする」という主張は有権者を説得するには至りませんでしたが、医療マリファナ運動家をより一般的な問題から遠ざけるのには有効でした。
  同じことがヘンプ問題についても言えます。例えば、北米産業大麻協議会(North American Industrial Hemp Council)はマリファナに対して、非常に強い反対の姿勢を示しています。一方、大麻産業協会(Hemp Industrial Association)はこれとは全く逆の立場を取っています。私はこの種のキャンペーン(宣伝戦)に打って出るグループに対して、是非、二つのことを覚えておいてほしいと思っています。まず、最初に、不和や内部抗争に陥る可能性があるということ。許し合う気持を持つことが重要です。後々、許し合わなければならない場面に数多く直面することになるでしょうから、今からそれに慣れておく必要があります。こうしたキャンペーンは人々の行動や振る舞いを変えてしまうほどの圧力を作り出すということを理解しておかなければなりません。二つ目に、選挙後に起きるであろうことに対して、予め準備をしておく必要があること。キャンペーンを進めるにあたり、ほとんどの人は選挙日に焦点を当てて注力しがちです。しかし、選挙の結果として何が起きるかを決定づけるのは、それとはまた別の側面なのです。もし、最初に問題となった数名の患者に弁護団を用意できるだけの準備が整っていたら、おそらく、今日のように数多くの事件で争うという事態を避けられたでしょう。

WOL: 私たちはドラッグ政策面での転換期を迎えようとしているのでしょうか?

コンラッド  そうですね、このシャドー・コンベンションの会場を見渡しても、トム・キャンベル、マキシン・ウォーターズ、チャーリー・ランゲル、ジョン・コンヤーズといった信望ある人物が集まっています。民主党のトップクラスのリーダーたちであり、もし、キャンベルが選出されれば共和党もこの仲間に入ることになります。私たちは今、正に大きな方向転換を目の当たりにしているのだと思います。私を含めてせっかちな人が多いので、それに気づかないだけです。私がこの問題にかかわるようになった1989年頃は、誰もヘンプが何かということすら知りませんでした。今日ではこうした用語を教える必要はなくなりました。同じことが医療マリファナについても言えます。私たち自身そして一般の人々に対する教育を通じて、今では人口の20%が医療マリファナが合法化された州に住んでいるというところまでこぎ着けました。これは政治家の力ではなく、有権者の声によるものです。もし、私たちがそれを受け入れるが勇気さえあれば、承諾年齢〔性交などに対する承諾が法的に有効と認められる年齢、米国では州により異なる〕の議論も共鳴を呼ぶに違いありません。多くはこの種の問題に直面することを拒み、まともに話をするのを避けようとする傾向が見られます。
  ほかにも増して、大麻問題に関する議論は、この10年間のあいだに大きく変わりました。民主党の役員たちが党大会から離れて歓楽街に来るようになったのも、議論しなければならない問題であることを理解したからであり、とても良い兆しです。また、トム・キャンベルがダイアン・ファインスタインに対抗して立候補したという事実は、共和党が自らの立場を明らかにしたことを意味します。これが特定の党派などに偏った問題ではないということが解ります。誰とでも10分間くらい話すことができれば、2、3の重要な問題を除いて、ほとんどの点で合意を得ることができるでしょう。

WOL: あなたが、快楽を得ている人々を罰することを望んでいるとコメントされている、ピューリタン(厳格主義者)と呼ばれる人たちについてはどう思われますか?

コンラッド  場合によりますね。彼らの厳格主義がキリスト教にもとづくものならば、ドラッグ戦争からさっさと撤退すべき確固たる理由があります。イエスが起こした最初の奇跡は、水から作ったワインだったことを思い出してください。これは宗教的な聖餐が目的ではなく、結婚式のお祝いのためのものでした。つまり、イエスはパーティー用にドラッグを用意したのです。イエスは、何を口にしたかではなく、その結果として生じるものが魂に影響を与えると語っています。ですから、「奴らがやっていることは気にくわないから刑務所に入れるべきだ」などと憎悪を剥き出しにしている人々こそ、より厳しい天罰を受けることになります。イエスは罪を許すことについて語っていますが、投獄することなど語ってはいません。イエスは病気や死に瀕している人々を助けるために法を侵しました。彼らがキリスト教徒であるならば、聖書の中に妥当性を見出すことはできず、自分たちのやっていることは誤りだと認めるしかないのです。
 もし、快楽を得ることは悪であり、助けを必要とする人々は耐え忍んで苦しむべきだと信じているような単なるサディストの集団だとしたら、精神学的な治療が必要ですね。この場合もやはり、改正後の結末について考えておくことが必要です。ドラッグ戦争によって被害を被った人々とドラッグ戦争の加害者が向かい合い、敵意や増悪を捨てて、お互いの人間性の回復と許し合う努力をするために、国家レベルで和解運動を進める準備が必要です。

(翻訳:麦谷尊雄)

〔 〕は訳注を示す。
※ この記事はDRCNet(Drug Reform Coordination Network, http://www.drcnet.org )の許可を得て翻訳・掲載しています。