1999年の夏に大麻自由化ムーブメント「カンナビスト」が生まれてから1年が経った。この1年を振り返ると、啓蒙活動を軸にした運動の実績を積み重ね、新しい仲間との出会いを築くなどムーブメントが前進している手応えを感じる。一方で、いくつかの問題点や課題も明らかになってきた。これらの問題についてざっくばらんに語ろうとカンナビストのメンバーによる座談会を9月末に開きました。
カンナビストの1年間
- 麻生 最近、ムーブメントの手応えが感じられますね。
- 山元 やっぱり8月の「いのちの祭り」に参加したのが一つの大きな山でしたね。ちょっと大変でしたけどね。
- Mary カンナビストのみんなぐったりでしたね(笑)。短い人で2泊でしたが、連続して日夜活動したのは初めてでしたしねぇ〜。
- 麻生 9月15日、代々木公園で開かれたハッパーズのライブでの宣伝活動ですが、あのとき会場にいた2000人を越える人たちに対して、カンナビストという大麻自由化をめざしたムーブメントがあることが認知されたと思います。
- 山元 イベントとかに僕らもなれてきましたよね(笑)。
- 麦谷 カンナビストの掲げている大麻の「非犯罪化」についても、これまで曖昧だった部分が、人と話しているうちにだんだん自分の中で整理されてきました。
- 松本 今年の1月でしたが、映画「ワイルドスモーカーズ」のイベントでアンケートがとれたことも成果でした。一般の普通の人たちに映画館で大麻問題のアンケートが取れたんですから。初回の対談で麻生さんと桂川さんの話も盛り上がったし。
それから3月に山元さんと一緒に行った霞ヶ関巡り(行政に大麻取り締まり状況の取材、「データハウス1号」に掲載)も面白かったですね。
- 山元 今度は成田国際空港の税関に行ってみたいですね。
- 松本 3月3日から下北沢のレストラン「ぐ」での月例会がスタートしました。初めて外に向かってムーブメントが開かれたわけです。それまでは僕らの顔が見えなかったけど、見えるようになった。
- 麦谷 「ぐ」での定例会がなかったら、実際に行動する人たちがこんなに増えたかどうかわからなかったですよね。
- Mary インターネットのホームページの書き込みも多くなり、大体、毎日100カウントくらいです。それにいろいろな場所でカンナビストを知っているよ、という人の声を聞くようになりました。なかには、すごく大きな団体なんじゃないかと過大評価している人もいるようでしたが。
いのちの祭りの会場で、女の子たちが「カンナビストって一般人がやってるんだ」と噂話しているのが耳に入ってきたりしました(笑)。実際にわたしたちに会えば、普通の人なんで拍子抜けしたりして。
- 山元 知り合いの若者雑誌編集者もカンナビストのことを知っていましたね。何かの話の途中でそんな話題が出てきたんですが、ぼくそのカンナビストをやってるんですと言ったら「エーッ」とびっくりされちゃいました。
- 麻生 ホームページのサロンの書き込みも内容のレベルが上がってますね。大麻はそれほど危険でもないのに「犯罪」のように取り締まるのはおかしい。今の取り締まり状況は人権侵害であるというカンナビストの主張のポイントが理解されてきたように思えるのですが。
カンナビストの主張は、非常にストレートで回り道していないのが結果的には良かったと思う。以前から大麻は産業資源として有用だとか、医薬として使えるといった主張をした方が一般の人には受けがいいのではないかという意見もあったのですが。
しかし本質的なことを言わないと、結局、本当の力にはならないんだということがはっきりしてきた。
- 松本 シンプルに何処へ向かって何を言うのかって明確にしておかないと、どこへも行きようがないんです。カンナビストが出来る前のことですが、大麻問題に関心のある人同士が話し合おうと呼びかけて集まったことがあったけど、結局、建設的なことは何も決められなかった。みんな大麻がキーワードなんだけど、大麻をどうしたいのか?というのが明確にないと収拾がつかなくなる。
それに大麻を環境問題からアプローチするという人と話していると、結局、その人は情報が欲しいだけということが分かってくる。雛鳥が口を開けて待っているだけみたいなもんです。
- 麦谷 環境問題から大麻にアプローチするといっても、確かに情報は集まってきますが、実際に一緒に行動する人が出てくるかっていうと、多分、誰も出てこないでしょう。ムーブメントとしては、一人でもちゃんと行動してくれる人が出てほしいし大切ですよね。
産業大麻・医療大麻という視点について
- 麻生 いまの日本で、組織的な大麻自由化のムーブメントってカンナビストだけです。あと医療用大麻をやっているグループも加えてもいいかもしれません。それ以外には名称はどうであれ、実態は個人の事業とか一人一党みたいなものですね。
- 松本 一口に大麻問題といっても間口が広くて、どこにポイントを置くのか見誤ることもあるんちゃいます? なかには勘違いしやすい人がおって、神道でお祓いに「大麻」を使っていたから禁止するのはおかしいといった信仰問題にしてしまったり、古来から栽培植物として日本人の生活に関わりがあったという歴史の問題にもっていってしまったりする。
- 麻生 大麻について、知ることも知識を持つことも大切だと思うんだけど、それはムーブメントとは違うんですね。
また、大麻を植物資源として利用することが環境問題の解決に役立つという人がいますが、じゃあその人が具体的に何をしているかというと、大麻ビジネスといって麻製品を売るだけだったりして。
ここで大麻をビジネスにすることを良い悪いと批評するつもりは毛頭ありません。もちろん大麻取締法の規制外の大麻の茎や種を利用したビジネスのことですが。いま不景気だから転業したり、新たに事業を興すという話をよく耳にしますね。それがパン屋さんだったりパソコンのソフト開発だったりするのと同じように大麻でもいいんです。
ただ、それと大麻の自由化のムーブメントとは別次元の問題なんじゃないでしょうか。お弁当屋さんが自然の素材を調理したお弁当を売ることが環境運動かっていうとそうではないと思いますが、それと同じです。誤解されないためにつけ加えますと、全然、それが大麻自由化にとって無意味だと言ってるんじゃありませんよ。一種の側面援助にはなると思いますから。
ですから大麻ビジネスに取り組んでいる人にも、大麻問題の本質を理解してもらって、ぜひカンナビストに協力してもらいたいですね。事実、関西で大麻の食用オイルやビールを手掛けている経営者で理解してくれている人もいますから。
- 松本 よく単純に大麻が認知されればいい、社会的に広まればいいっていう意見もありますが、それは結局のところ大麻自由化とは反対の方向へ行く可能性もあると思うんです。産業大麻が実現するということは、有効成分であるTHCのない大麻を栽培するという方向へ行ってしまうんじゃないでしょうか。
- 麻生 少し横道に逸れてしまいますが、一言だけコメントしておくと、そういった主張の底には人間の意識とか自由とかの問題、つまり大麻体験の中で感じるような心の世界についての押さえがちゃんと出来ていないんでしょうね。
- 松本 そういった主張っていうのは、搦め手作戦を練っているだけで、大麻問題の核心をなぜか避けて通っている。変なもんですね。やっぱり、本音を言うのが怖いんでしょうか。
- 麻生 そういう怖さこそが、人間の自由を抑圧するものであって、国家とか社会とかの重圧ですね。本当は、その正体を大麻が気づかせてくれるはずなのに、そこを理解して欲しいですね。大麻自由化のムーブメントって、実は精神の自由の一番核心にある問題だと思いますね。
また医療大麻の問題っていうのは重要な問題だと思うし、患者さんが日々苦しんでいるのは悲惨なことですね。薬として大麻が患者さんの手に入ればいいなと思っています。
ところで医療大麻のムーブメントでは、(健康な)普通の人が大麻取締法で逮捕されているということについてはどう考えているんですか?
- 麦谷 医療大麻の問題は患者さんにとって緊急に必要だということです。緊急性があるので先に薬として大麻を認めて欲しいという主張です。患者ではない普通の人たちを否定しているわけじゃなくって、そういう人たちに協力してもらうっていうのが大前提です。
- 松本 理想を言ったらまず人権があって、その中にピンポイントで医療があってそれが合体して行くというのが一番の近道だと思うんです。
その中で、誰を最優先するのかというと医療になるのなら分かる。ただ、特化して難病とか、大麻じゃないと効かない人だけに大麻を認めるというような狭い方向性に向かう恐れもあるんじゃないでしょうか。それでは広い意味で普通の人のストレスに効くという大麻の可能性について否定してしまうことになるし、医者の診断書がないとダメってことになると僕は困ります。
- 麦谷 米国のカルフォルニア州で医療大麻が合法化された時に、ムーブメントの中心になっているクリス・コンラッドというけっこう有名な人がいて、その人の最近のインタビューを読むと合法化される前っていうのは、医療の人だとか環境の人だとかリクリエーションの人だとかみんな一緒に頑張ったらしい。だけど、医療用で合法化されたっていう瞬間に、組織がバラバラになったという。医療の人たちが他の人たちから距離を置くようになってしまったみたいです。
- 山元 それぞれのエゴが出てきてしまうんですね。
- 麦谷 スタンスを明確にしたうえで繋がっていけばいいんです。
- 麻生 医療用大麻は、当事者である患者さんが中心でしょうし、患者さんに対してシンパシーを持つ人たちが周りに集まってムーブメントが作られるものではないでしょうか。
普通の人にとっての問題とか大麻取締法で逮捕された人の人権を考えるとき、そういう関係にはならないですね。大麻を自由化したいと思っている人が、自分の意見を直接的に言えないから、とりあえず医療用大麻を前に立ててやっていけばいいんじゃないかという思惑でいたとしたら、それはおかしいですよね。
大麻が医療用に自由化されるとしたら、その時、乱用防止とか言って普通の人には大麻を使用させないような条件がつかないように願いたいですね。医者の管理のもと病気の人だけには大麻を確保して、それ以外の人には廻らないようにするみたいな。
- 山元 大麻免許もそうですよね。有効成分(THC)のないCBDAの固定種の大麻なら許可するけどみたいな。
- 松本 先ほど神道と大麻の結びつきを過剰に強調する意見のことを批判したけど、そういう話は聞けば聞くほどオカルトチックな印象が強くなる。それは信仰でしょう、宗教でしょうってことになる。宗教を信じている者同士なら話は通じるんだけど、多くの人はそうじゃないから当然気色悪いって見られる。
- 麻生 その人、個人が大麻が好きっていうことにあれこれ言うつもりはありません。大麻の葉が美しいから植物として好きだという人がいてもいいでしょう。大麻を栽培して衣服や合板に加工した製品を作りたいとか……それはそれで良いでしょうが、それと今の大麻問題、多くの人たちが人権を侵害されているという大麻問題とは別です。その点についてちゃんと整理して欲しいですね。
- 松本 宗教とか信仰とか持ってていいんですよ、それは自由ですから。それを他の人に強要しないで欲しいんです。
- Mary あまり大麻を神格化しちゃうと怖いですよね。一般の人に伝わらないし……神格化するのは自由なんですけど、それを第一の訴えみたいにしても大麻の自由化のムーブメントにならないんじゃないでしょうか。もっと一般の人たちが同感できるようなポイントの主張をしないと。
大麻の「非犯罪化」とはどういうことか
- 麻生 カンナビストは大麻の自由化を「非犯罪化」の実現として考えているんですが、その内容というか意味がまだ浸透していないようですね。インターネットに書き込まれた意見でも伝わっていないことが分かってきました。
- 松本 まず言葉の定義からいきますと「非犯罪化」って言ってもかなり広義で、非刑罰化というようなその法律自体をなくすというのも「非犯罪化」に含まれます。あるいは刑罰を与える代わりに反則金であるとか、適用を緩やかにするとか、事実上まったく自由化してしまうとか、それらを全部含めて「非犯罪化」という言葉で括っています。
どのような形にしていくのかは、今後の課題だと思う。
- 麻生 現在の社会状況では、大麻取締法を改定するとか、廃棄するというのは、現実的には難しいと思う。実現可能な戦略としては、次のようなことを考えているんですが。
まず、いま規制されているいろいろな薬物の中で大麻だけは他のものと切り離して考える。その上で、大麻の少量の個人使用(の所持・栽培)に関しては警察や厚生省の取り締まりを緩やかにする。検察はその逮捕者については、不起訴にするなど処分を軽くする。裁判所はできるだけ軽い判決を出すようにする。こういう方針を行政や司法が選択するように社会的圧力をかけていくことではないかと思う。
- 松本 いま軽犯罪法なんかは、ほとんど「非犯罪化」になってます。厳密に当てはめて適用すれば、日常生活の中で時々しているようなことも軽犯罪法にふれることはずいぶんあるんです。ステップとして大麻取締法の改廃はその先のことでしょう。だから麻生さんが話したような形の「非犯罪化」が当面の目標になるのではないかと思う。
- 麦谷 逮捕することは見せしめでしかないですよね。逮捕したところで、その本人にも社会的にも害があるからというわけじゃないんですから。
- 山元 そのあたりは滅茶苦茶ですよね。芸能界の関係者が薬物事件で逮捕されてマスコミで大きく報道されるけど、結局、執行猶予ぐらいですんでいたりして。それほど大事件でもないのに何であんなに大騒ぎするのか。
- 麻生 大麻事件の裁判を見ていると、判決は、所持(栽培)の量、逮捕後に反省の態度を示したか否か、前歴の有無、その人の社会的境遇という大体4つの条件によって決まるようですね。
- Mary 社会の一般の人たちが偏見や誤解を解いて大麻は有害ではないということを分かってもらえるように伝えることが「非犯罪化」への道ですよね。
カンナビストの活動はどんなことをしているのか
- 麻生 以前、大麻自由化というと、大麻そのものを広めればいいんだというような人もいたけど、カンナビストはそういうやり方ではないんですね。大麻は悪いものではない、今の取り締まりと刑罰は過剰すぎると言論で語ることが大切だと思うわけです。大麻取締法は、大麻の所持・栽培を規制した法律だから、大麻についての言論活動は法に触れるわけじゃないんです。
- 麦谷 カンナビストのホームページにメールで、大麻自由化みたいな活動をすると当局から睨まれ危険な目に遭わないでしょうかという女の子からの質問が来たことがありました。でも実際にカンナビストの活動をしていても違法行為をしているのではないですから危険なことは何もありませんね。
- Mary カンナビストのムーブメントは市民運動の一種だから、カンナビストに関わる前よりも時間の余裕がなくなるという面はあるかもしれません。でもそれは、その人が普段の生活との兼ね合いの中で、大麻のことをどれだけやる気になっているかということだと思うんです。やらなければ何も進まないんだと自分が本当に心から思うかどうかで決まるんじゃないでしょうか。
- 松本 それは大麻に限らず言ってるだけの人っていうのは常にいるわけだし。
またそれとは別に、大麻取締法に反対するということについてですが、それを主張することが怖いことなんじゃないかと誤解している人がいるようですね。ぼくたちは順法精神に基づいて、社会のルールを守っているんです。だけどこの一点、大麻取締法に関してはおかしいというのがぼくたちの立場だと思うんです。テロリストでもアナーキストでもないんです。だから法律を破って何かやるんだというのとは違うんです。
- 麻生 大麻取締法があることが、理不尽な法律に縛られることであり、むしろ国民の順法精神を崩すことになるんです。まさに天下の悪法なんです。
ひとりで立ち上がるのは怖いという人でも、カンナビストがある程度の数以上になり、目に付くようになればムーブメントに参加するようになってくると思いますね。
- 松本 ぼくたちがどういうことをやっていて、何も問題がないんだということを知ってもらうことですね。不安を解消するのがぼくたちの役割でしょうね。
ムーブメントの主張についてですが、犯罪行為の煽りや唆しにならないよう表現について配慮が必要だと思っています。未だ適用例はないですが、大麻取締法には広告を禁じた条項があります。麻薬特例法という法律では大麻を含む規制されている薬物の「乱用」(当局の用語ですが)を公然と煽ったり、唆すことを取り締まることができる。カンナビストのようなムーブメントをやっていく上では、こういった法律についても配慮が必要になります。
- 山元 話題は少しかわりますが、1年間の流れでは大きなイベントの後は、少しの間、疲れちゃって活動がお休みになったりしたこともありましたね。
- 松本 大麻の自由化が実現する前に燃えつきてはしょうがないんですから、ペース配分が大切ですね。
- Mary みんなムーブメントを止めないという仲間の信頼感があるじゃないですか。それが疲れてもみんなをもたせているんですよね。続けていくということは大きいですね。
- 山元 継続は力なりという言葉は嫌いだったんですけどね(笑)。続けていくだけなら誰でもできるんじゃないかと思っていましたから。
- 松本 まさしくそれですね。誰でもできることをしようといってるんですから。
- 麦谷 これまでの大麻の運動というのは、はじまるまではがんばるんだけど、いざ、立ち上がってしまうと空気が抜けてしまうみたいなことがありました。
- 麻生 そうそう、NHKの報道番組の中で大麻のことを誤って報じていたということに抗議する運動に関わったときなど、最初に組織の規約や人事ばかり話しあったんだけど、それが出来た頃から急に人が集まらなくなったりして(笑)。
- 松本 最初に形から入ると苦しいものがあるんでしょうね。無理して形に合わすみたいになってしまう。
これから加速度的に「非犯罪化」の流れは強まっていくでしょう。11月からの「非犯罪化」をテーマにした勉強会では、大麻事件で逮捕されたケースの事例を集めて、何グラム所持していたら刑はどれぐらいになるとか調べてみたいですね。
- 麻生 カンナビストの1年目は基本的な主張を整えながら組織的な力を蓄えるという土台固めに専念してきました。マスコミや行政に対する圧力団体として動き出すにしても、こちらに人数的な力がなければ相手にもされないでしょう。カンナビストに関わる人の数が増えていけば社会的にも無視できなくなってくる。これからが正念場です。
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