過去10年間に数百人の死者と数千人もの負傷者を出すなど、サッカー試合でのファンの暴動にヨーロッパ各国の政府は数年来、頭を悩ませていた。各国政府は、報道関係者が「フーリガニズム」と呼ぶ暴力行為を防ぐために、フーリガンに関するデータベースの整備と共有、既知のトラブルメーカーに対する旅行禁止令の賦課、大規模な機動隊の配備、競技場およびその周囲のいたるところでビデオカメラ設置して監視するなど高圧的な対策を強化してきた。
先週末のサッカー欧州選手権(EURO2000)を主催したオランダでは新しい方針が試された。オランダ当局は、アルコールの販売を厳しく制限したのと対照的に、効力の強いマリファナが公然と販売され消費されている世界的に有名なコーヒーショップに対しては一切制限を設けなかった。実際、アムステルダム当局はいくつかのコーヒーショップに特別な許可を与え、通常の閉店時間である午前1時以降の営業も認めたとガーディアン紙(イギリス)は報告している。
こうした異例の処置はアムステルダムのコーヒーショップ店主らの努力により実現にこぎ着けた。彼らは、市内に数百軒あるほかのバーと同じように、ファンの暴力行為により店が閉店に追い込まれることを恐れていた。コーヒーショップの代表が市や国の役人らとの話し合いを持った。オランダ政府との交渉の中で、マリファナ販売者と栽培者は平常通りに営業し、ファンに来店を呼び掛けることによりトーナメントを平和に運営することができると説得した。
結局、オランダ政府はこれに賛成した。「幸運にも理解してもらえた」とアムステルダムのマリファナ情報センター、カナビス大学の設立者ローランド・ダムはガーディアン紙に語っている。「カナビスがあるところは何処も問題が少ない。ジョイントを吸った人が暴動を起こしたなんて話を聞いたことがあるかい? コーヒーショップが平常通り営業できることは市とトーナメントのどちらにとってもよい知らせだ」とダムは付け加えている。
寛大な姿勢は国際都市アムステルダムに限った話ではない。6月12日にイギリス対ポルトガルの試合があったアイントホーヴェンでは、市長が市内の10軒のコーヒーショップに通常通りの営業を認めた。市のスポークスマンはロンドンデイリーテレグラフ紙に、「私たちはカナビスの使用について心配はしていません。市を訪れてカナビスの効果に興味を持った人々が、正しい情報にもとづいて使用してくれることを望んでいます」と語っている。
こうした態度は、トーナメント期間中の市内でのアルコールの規制とは著しく違っている。アイントホーヴェン当局は悪名高いイギリス人にはプラスチックのコップに入った水で薄めたビールしか出さないように強く要求している。
アイントホーヴェンでは厄介なイギリス人ファンがポルトガルに3-2で破れるのを見る羽目になったが、試合後の報告はこの戦略が成功したことを伝えている。アイントホーヴェン警察によると、チケットを入手できずにコーヒーショップに来ていたファンの反応には「若干の失望と寛大な称賛」が見られた。「カナビスが彼らをリラックスさせてくれたのかもしれない」と警察のスポークスマンはBBC(英国放送協会)に語っている。アイントホーヴェンでの逮捕者数がこの主張を裏付けている。逮捕されたのは僅か5人、しかも全てが試合前のことで、そのうちの3人もダフ屋行為によるものだった。
オランダではサッカー欧州選手権でのカナビス優遇処置は成功とみなされており、他国のマリファナ支持者も難題に対する有効な手段ととらえている。既にBBCは、イギリスのカナビス支持団体がオランダの経験を取り上げ、イギリス当局に対してこれと同様のドラッグ政策を取るよう提案したと報じている。
※この記事はDRCNet(Drug Reform Coordination Network)の許可を得て翻訳・掲載しています。
訳者補足:
今回のサッカー欧州選手権はオランダとベルギーによる共同開催だが、その後ベルギーではオランダとは対照的な事件が起きている。(以下は6月19日朝日新聞朝刊からの抜粋)
イングランド-ドイツ戦がベルギーの中部シャルルロワで行われたが、シャルルロワと首都ブリュッセルでイギリスのファンが商店や自動車のガラスを割るなどして暴れ、機動隊が催涙弾や放水で「応戦」した。900人が逮捕され、その大半は19日までにイギリスに強制送還された。欧州サッカー連盟(UEFA)は18日緊急会合を開き、「同様の事件が繰り返されるようなら、イングランドチームの参加を見直す」とする声明を発表、イングランドの2006年ワールドカップ招致も危うくなっている。
(翻訳:麦谷尊雄)
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