アメリカにおける研究目的での
マリファナ販売解禁の意味
『CannabisNews』第2号(1999年11月20日発行)より


アメリカにおける研究目的でのマリファナ販売解禁の意味

 平成11年5月22日の朝日新聞(夕刊)で、「マリファナ販売解禁へ 米国 研究用のみ、12月にも」と題する記事が掲載されていた。以下に記事の一部を引用する。

「米政府は二十一日、マリファナを医療研究用に販売するためのガイドラインを発表した。マリファナはエイズやがんの痛みなどに有効とされ、研究者は研究目的が承認されれば、購入することができるようになる。入手を容易にして研究を進めるのがねらいだ。ガイドラインの発効は十二月で、価格は未定という」

 アメリカでは、20年以上にわたり、臨床研究に必要なマリファナの栽培や配給が連邦法によって厳しく制限されてきた。この結果、連邦政府の予算で研究が認められたものでない限り、研究用のマリファナの入手は不可能に近かった。今回の政策の変更は、住民投票などを通じた医療マリファナの高まりなどの圧力によるものだが、直接的には、今年3月に米科学アカデミーの医学研究所(IOM)が発表したIOMレポートによる影響が大きい。本レポートでは、マリファナに医療効果があることを認め、さらなる研究の必要性を求めている。
 この記事を読んで、いよいよアメリカの連邦レベルでも医療使用が認められるようになると考えた人も多いことだろう。アメリカ国内では歓迎する声がある一方で、状況的にはこれまでと何ら変わりないと悲観視する声も聞こえる。
 実際にこの手続きの内容がどのようなものなのか、米保健社会福祉省(厚生省)が発表した内容をベースに検証してみたい。
 まずは今回発表された手続きの目的である。

「本プログラムの目的は、〔喫煙以外の〕別の経路を通じて摂取した場合に、マリファナのカンナビノイド成分が食品医薬品化粧品法の下に列挙された医薬品としての販売するための基準を満足するか否かを確認することである」
「最初の、そして全ての段階においての目的は安全性と被験者の権利を保証することであり、第二、第三段階での医薬品の効果と安全性の評価に耐え得るものであることを保証するのに役立てる」

 つまり、初期の研究目的は安全性を確認するものに限られるということである。これを通過しないと本来の目的である有効性の研究ができないことになる。これまでの経験から、ここのハードルが意図的に高く設けられ、それ以上先に進まないのではないかという懸念がある。
 次に、研究用のマリファナの供給には以下の制限がある。

「供給量が限られている場合、マリファナは以下に示される優先順位に従って供給される。

  1. 米国立保健研究所(NIH)がレビューし、米国立保健研究所の予算で行われるもの
  2. 政府機関が実施するかスポンサーになっているもの
  3. 上記以外が実施するかスポンサーになっているもの」

 つまり、申請者が必ずしも研究用のマリファナを入手できる保証はなく、供給量が限られているという理由で、これまでと同様の基準で入手が制限される可能性がある。本プログラムは12月1日から申請を受け付けることになっているが、現在どれくらいの備えがあるか不明である。供給元であるミシシッピー大学ではマリファナを野外で栽培しているため、一般の研究者が研究用のマリファナを入手できるのは、早くても来年の秋(収穫期)になることが予想される。
 最後に、本手続きは一人の患者を対象にした研究には適用できないようである。

 「米国立保健研究所は、本プログラムを複数の患者による臨床試験に向けることを方針とする。以前、公衆衛生総局の下で確立されてきた患者単位での治験新薬個別療法は、科学的に役立つ情報を提供できないなど、多くの問題をかかえており、本プログラムの下ではこれが支持されるとはないだろう」

 医療マリファナの支持者の多くは、特にこの点にがっかりしている。先のIOMレポートでは、次のように結論づけている。

「喫煙以外の方法で、迅速に効果を現すカンナビノイド摂取方法が使用可能となるまでの間、痛みやエイズの消耗性疾患など、マリファナの喫煙以外に軽減する有効な手段がない慢性疾患に苦しむ患者がいることは事実である。
 これに対するひとつの解決策として、n-of-1 トライアルが考えられる。患者に有害な薬物摂取方法を用いた試験の被験者であることを伝えた上で、医師の監視下で状態の観察と記録を行うことによって、このような状況でのマリファナの使用の危険性と有益性に関する知識を高めていくことができる」

 残念ながら、今回発表されたプログラムでは、こうした勧告は完全に無視されている。
 このように、悲観的材料は多々あるものの、連邦政府がようやく重い腰を上げて、一般の研究者を対象としたガイドラインを設けたことは評価できる。果たして、行政機関のコメント通り、殺到する研究の申請に対して門戸が開かれるのか、それともこれまでのように実行不可能なまでに手間がかりで煩雑な事務手続きが待っているのか、ガイドラインが発効される12月以降の展開を見守っていきたい。

(麦谷尊雄)


参考資料
  1. 「マリファナ販売解禁へ 米国 研究用のみ、12月にも」, 朝日新聞(夕刊), 1999年5月22日
  2. ANNOUNCEMENT OF THE DEPARTMENT OF HEALTH AND HUMAN SERVICES' GUIDANCE ON PROCEDURES FOR THE PROVISION OF MARIJUANA FOR MEDICAL RESEARCH」, May 21, 1999
  3. 「Marijuana Studies to Be Aided by Likely Policy Reversal」, May 21, 1999
  4. HHS Announcement on New Medical Marijuana Research Rules Shows It Is The SameOld Game