日本テレビ「TheサンデーNEXT」(11/2)に対する意見書


 11月2日、午前8時から日本テレビで放送された番組「TheサンデーNEXT」中の大麻に関する報道に対して、以下の意見書を送付しました。

 


日本テレビ「TheサンデーNEXT」に対する意見書

日本テレビ放送網株式会社
 代表取締役 氏家齊一郎 様
 「TheサンデーNEXT」制作責任者 様

2008年11月27日
カンナビスト運営委員会

前略
 わたしたちは現在の大麻の取り締まりの見直しを訴えて活動している市民団体です。
 日本テレビで放送された番組「TheサンデーNEXT」(11月2日、午前8時〜)で、大麻の問題を取りあげていましたが、内容には事実に反する点が多々ありました。
 大麻を危険な薬物であるかのように視聴者に伝えることを意図した無責任な番組と言わざるを得ません。無責任という言葉を用いたのは、大麻が有害なものなのか、そうではないのか、番組制作者として少しでも調べた上で作られているとは思えないからです。
 大麻の有害性は低いということは、日本を除くG8(主要8カ国)、あるいはEUの主立った国々では、共通の認識になっています。事実、オランダ、ベルギーに限らず、多くのヨーロッパ諸国や、ロシア、カナダ、 オーストラリア、中近東などの国々において、現在、個人使用の摘発はほとんど実施されていないか、罰金などの科料が定められているだけです。日本でも、少数意見ですが取締り政策の見直しを求める声が社会的に存在しています。
 貴局は、そういった有害性の有無、取締りの是非について賛否両論があるにもかかわらず、一方的に国、行政の取締り政策に沿った内容を、それも誇張して制作しています。大麻の問題は、社会的な問題であり、取りあげる上で報道番組としての視点が欠かせないはずですが、貴局は、専らセンセーショナリズムを煽るだけの内容なのが残念です。以下に、問題点を指摘します。

(1)覚せい剤、コカインの密売場面について
 まず冒頭で、白金の住宅街で薬物の売買が行われているというニュース映像を流しています。その概要は、富裕層の住む住宅地で薬物売買が行なわれていたということと、「こんなに薬物をやって、日本人が心配になった」という逮捕者のコメントの紹介です。密売で扱われていた薬物は、覚せい剤、コカインであったというコメントがありました。大麻の売買でもなければ、大麻で逮捕された人のコメントでもありません。
 素朴な疑問として、大麻をテーマにした特集に、なぜ大麻とは関係ない薬物事件の映像を使うのでしょうか。規制薬物はみんな一緒だというのでしたら、あまりに幼稚で乱暴な議論です。ここで指摘していることは、極めて初歩的なことです。覚せい剤やコカインと大麻をイメージで結びつけるような構成は、視聴者に誤った認識を与えていることになる、ということを指摘します。

(2)非科学的なラットの実験映像について
 実験用ラットに大麻成分を腹腔内投与(注射)し、その攻撃行動の発現を見るビデオが放送されましたが、それと人体への影響を結びつけることはできません。該当のビデオは、財団法人「麻薬・覚せい剤乱用防止センター」のものですが、ラットの動物的習性、飼育条件、摂取方法、ラットと人の体重比など、科学的な実験とはいえないものです。
 大麻の有害性の有無については、諸外国でも30年、40年かけて研究や調査が行われ、そのおおよその結論として、有害性は低いということが明らかになっています。大麻の喫煙により、人間が暴力的・攻撃的になるということは否定されています(注1)。2004年、わたしたちは、厚労省に情報開示請求を行い、それまで大麻が原因とした二次犯罪(傷害や窃盗など)が起きたことがあるかという質問が出しましたが、それに対して厚労省からは、そのような事実はないという答えが届いています(注2)。
 前項で、覚せい剤やコカインの密売映像を挿入していることの不自然さを指摘しましたが、ここでも同様に、すでに科学的には説得力を失っている動物実験の刺激的映像をなぜ流すのか大きな疑問を感じます。そこに共通するのは、刺激的な映像を流すことを優先に特集が構成されていることです。

(3)大麻からより刺激の強いものに移っていくという仮説について
 番組では、元薬物使用者とされている人物のインタビューが紹介されています。その人物は、「大麻からより刺激が強いものに移っていく人たちも多いと思う」と発言していました。これは、大麻が他のより有害な薬物を使用するようになる入口になっている「入門薬物」であるという説、通称ゲートウェイ・ドラッグ説に沿った発言です。字幕スーパにも「大麻からより刺激が強いものに移っていく人が多い」と書かれていました。
 一個人の感想としては、そんな意見もないとは言い切れませんが、一方で、奇妙な印象も受けます。近年、大麻の有害性は低いということが、学問的にも認められるようになってきたことから、取締りの根拠として、改めて持ち出されるようになってきたのが、1970年代前半にアメリカで唱えられていたこの仮説でした。
 ゲートウェイ・ドラッグ説は、厚労省が過去に行っている委託研究でも、アメリカの公的研究でもそれは事実ではないと否定されてます(注3、4)。
 何も大麻の規制に反対すべきであると求めているのではありません。公正、中立の立場で、物事を見る目を幾分でも持っていただきたいと願うものです。

(4)「人間やめなければならない」という発言について
 番組進行役の徳光和夫氏は、特集の最後に「人間やめなければならない」という発言をされておりました。これは、前述の「麻薬・覚せい剤乱用防止センター」が用いていた「覚せい剤やめますか、それとも人間やめますか」という標語を踏襲したものではないかと思われます。この標語は、どぎつい、刺激的な印象を過剰に強調したもので、人権的に問題があり、今では使われなくなっているものです。
 覚せい剤が引きあいに出されていますが、薬物依存症の患者を「人間やめますか」と言ってのけることに何の疑問もないのでしょうか。狭義の薬物だけでなくアルコールやギャンブル、ネットなどいろいろな依存症や心の病を患っている人々がいます。みんな人間であるのは自明のことです。
 再三、指摘してきたことを繰り返すのは、こちらも望んでのことではありませんが、ここでも「覚せい剤」に用いられた標語をどうして大麻をテーマにした番組の結語として持ち出すのか理解に苦しみます。はじめに、覚せい剤やコカインと大麻を混同させているのではないかと指摘しましたが、最後も同じ指摘になります。このように辻褄の合わない番組を制作していて疑問を持たれないのでしょうか。
 覚せい剤やコカインの密売映像、ラットの動物実験映像、そして「人間やめなければならない」という結語に共通しているのは、刺激的なシーンや言葉を選び、それを視聴者に押し出すことを優先している制作方針です。メディアとしての報道姿勢を問う前に、貴局は、安直な番組制作が目につきます。
 イエロー・ジャーナリズムという言葉をご存知かと思います。アメリカで19世紀末に、発行部数を増やすために誇大で興味本位の性記事や私生活暴露記事を売り物にする新聞や雑誌のことをそう呼びました。この番組は、そういった性格を持っていると指摘しておきます。報道機関として襟を正していただきたい。

 大麻には人に刑事罰を科すほどの有害性はありません。それは本当のことです。既にふれていますが、世界の文明国では、ほぼ共通認識になっています。事実、一連の大学生の大麻事件でも、彼らの中から大麻によって健康を害したり、学業が妨げられたといった者が出ていたのでしょうか。彼らの中から覚せい剤に手を出してしまった者が出ていたのでしょうか。心身、学業、人生にとって最も大きな痛手は、逮捕されたこと、それをメディアで報じられたことだったはずです。
 大麻事件の逮捕者たちが、日本の法律に違反して逮捕されているのは事実であり、そのほとんどは有罪判決を受けています。それは、いわば事実関係に属することですが、刑事手続きがどれほど適正であっても、処罰の必要性のない行為を処罰し、犯罪行為に比較して異常な重罰を科するなど、刑罰の内容そのものに問題があるならば、それ自体、刑罰権の濫用です。物事を興味本位に、刺激的に報じることだけを考えるのではなく、本当のことを報じようという真摯さを持ってください。
 毎年、2000人を越える市民や学生が大麻で逮捕され、仕事や学籍を失っています。大麻取締法によって人生を傷つけられ、理不尽な思いを懐いている人たちが大勢います。
 国、行政べったりの広報のような報道番組ではなく、国民に大麻問題には全く別の視点もあることを伝える、そういった公正な報道番組を作られるように願っています。

カンナビスト運営委員会
〒154-0015 東京都世田谷区桜新町2-6-19-101
TEL/FAX:03-3706-6885
電子メール:info@cannabist.org

(注)

注1:The Classification of Cannabis under the Misuse of Drugs Act 1971 (2002),Report Of The Senate Special Committee On Illegal Drugs,,Marijuana and Medicine: Assessing the Science Base (1999)
注2:「行政文書不開示決定通知書」(厚生労働省発薬食第0408033〜66号)
注3:「大麻乱用者による健康障害」(依存性薬物情報研究班)
注4:Institute of Medicine, 1999, Marijuana and Medicine. 全米医学研究所(IOM)の報告書

【カンナビストについて】
 日本の大麻(マリファナ、カンナビス)取締りは、著しい有害性は認められない大麻に対し過剰に厳しい刑罰を科しており、年間3000人以上の市民が逮捕されている状況は公権力による人権侵害であると訴えている非営利の市民運動。
  設 立:1999年7月1日
  会員数:4,602人(2008年9月9日現在)
  ホームページ http://www.cannabist.org/