五人の学生の処遇に関する法政大学への要望書

 法政大学の学生五人が大麻事件で逮捕されたことが新聞等で報道されました。
 この件に関して、カンナビストは、学生の教育を受ける権利を守ることを第一に考え、人権に配慮した適切な処遇を求める以下の要望書を法政大学の総長および常務理事・理事宛に送りました。


大麻問題に関連して五人の学生の処遇について要望いたします

法政大学
 総長 増田壽男 様
 常務理事・理事 各位 様

2008年10月14日
カンナビスト運営委員会

前略
 わたしたちは現在の大麻の取り締まりの見直しを訴えて活動している市民団体です。先頃、新聞報道を通じて、法政大学の学生五人が大麻取締法違反(共同所持など)の疑いで逮捕されたことを知りました。新聞報道によると、容疑は少量の大麻の所持・譲渡であり、犯罪性の低い事件であると理解しております。
 わたしたちは、このような犯罪性のそれほど高くない事件によって、将来ある若い五人の学生が教育を受ける機会を奪われるような事態に至るようなことがあってはならないと案じています。また、いずれも当時19歳の未成年であるということも踏まえ、五人の学生が、今後も貴学にて教育が受けられるように、人権に配慮した適切な処遇を下されるよう要望いたします。

一、大麻の有害性の低さ、および諸外国における大麻の扱いについて

 わたしたちは、薬物乱用、薬物汚染という言葉で、大麻と他の薬物がひとくくりにされている現状に問題があると強く感じています。大麻はシンナー、覚せい剤、麻薬などと化学的にも全く別のものであり、心身に与える影響や有害性も大きく異なります。
 大麻に身体的な依存性がないことはすでに広く知られていますが、近年では多くの研究者が、身体的、精神的な有害性についても、その相対的低さを主張しており、欧米諸国においては大麻の医学的・社会的有害性はアルコールやタバコよりも低いという認識が定着しています。また、大麻の喫煙が、よりハードな薬物使用と結びつくという「ゲートウェイ」説についても、擬似相関であるとして否定されています。

 大麻には著しい有害性はないという事実から、主要な先進国では大麻の少量の個人使用は犯罪として扱わない、いわゆる非犯罪化政策を取るようになっています(注1)。これは、大麻を使用することによって生じ得る弊害と、使用者を罰することによる弊害とを比較して、どちらが個人あるいは社会にとって弊害が大きいかを客観的に判断した結果(=ハーム・リダクション)です。
 現在、大麻使用に懲役刑以上の厳罰を科している国は、G8においては日本とアメリカだけですが、アメリカにあっても大麻使用は日本ほど厳しく取締りが行われておらず、州によっては逮捕されることもありません。今の日本の大麻取締りは、主要先進国の中では非常識とさえいえるほど過度に厳しいものです。

 しかしながら、日本では、一般的にこのような事実について知られていないどころか、覚せい剤や麻薬などと同じように危険な薬物として扱われているのが現状です。そのような新聞・雑誌記事や書籍、マスコミ報道などを見ると、既に否定されている過去のデータに基づいていたり、科学的に信ぴょう性の低い情報が含まれていたり、出典が明らかにされていない(できない)情報に基づき書かれているものが大部分です。

 2004年、厚生労働省に対し情報公開法に基づき、大麻の有害性について情報開示請求を行いましたが、その回答によれば、日本国内で大麻が原因の各種の病気・健康障害は起きていないこと、大麻が原因による二次犯罪は起きていないことが明らかになっています(注2)。
 さらに大麻事件の裁判の公判でも、大麻を有害だとして広報活動をしている代表的な団体である「麻薬・覚せい剤濫用防止センター」(「ダメ。ゼッタイ。」啓発活動)の公表している大麻の「有害性」情報について、根拠がないということが明らかになっています(注3)。

 本来は多角的な視座をもつべきマスメディアが、世界的に賛否両論が存在する問題において、一律な道徳観の押し付けにもとづく報道を続けていることを、私たちは強く危惧しています。それによって、多くの人たちが社会的制裁を受けて傷つき、人権を侵害されているという事実があります。
 加えて、薬物教育などで過剰に有害性・危険性ばかりが強調され、事実が歪曲して伝えられてきたことにもまた、大麻について理性的、客観的な議論ができない状況を作っている原因のひとつとなっています。このような状況は、薬物教育そのものに対する信用性を失わせ、薬物問題を逆に複雑化させていると指摘されています。

二、五人の学生の処遇について

 憲法第26条では「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」とされています。現在、貴校で学んでいる学生の教育を受ける権利を守ることこそ教育機関としての最も大切な使命であるはずです。

 2005年3月、最高裁第二小法廷は、大麻取締法違反で逮捕され起訴されていた20歳の男性について、大学受験を理由にして保釈の決定を出しています。この最高裁決定は新聞報道でも報じられました(注4)。
 最高裁が保釈を決定した理由は「前科前歴がなく、家族と同居し、芸術大学を目指して受験勉強中であり、試験の期日が目前に迫っている」とのことです。これは大麻取締法で逮捕された場合でも、客観的に犯罪性が高くないならば、成人になったばかりの若者の教育を受ける機会を妨げることは好ましくないと司法が判断したと受けとめられます。
 わたしたちは、大麻の有害性・危険性は、比較的軽微であるという事実に基づき、罪刑の均衡の見地からもその判断はもっともであると考えます(注5)。

 新聞報道によると、今回の事件を受けて、貴学は「早急に事実の把握に努め、厳重に対処する所存です」とコメントされています。
 五人の学生は少量の大麻を個人使用目的に所持・譲渡していたという、刑事事件とはいえ被害者の存在しない犯罪性の低い事件であるとわたしたちは理解しています。
 大麻事件は、一般の刑事事件と異なり被害者のいない犯罪といわれます。今回、彼らは大麻取締法に違反した容疑で法的な処罰を科される可能性がありますが(わたしたちは、大麻取締法は日本国憲法第31条〔罪刑の均衡の原則〕、13条〔個人の尊重〕などに反しており、違憲であるという立場ですが)、法律違反の疑惑があること自体が問題であると切り捨ててしまうようなことがないよう、お願いいたします。
 貴学としての対応を検討するにあたっては、果たして大麻を所持・喫煙する行為が、強盗や傷害のように他者の法益を侵害することになるのか、どういった弊害を社会に与えたのか、といった物事の筋道、道理に立ち返って考えていただきたいと願っています。

 教育機関として、今回の事態に際しては、処罰や制裁を科すよりも、先にふれましたように学生の教育を受ける権利を守ることを第一に考え対応されるよう願っています。
 五人が当時19歳の未成年であったことも踏まえ、人権を擁護する立場から、若い五人の将来を最優先に考え、公正かつ適切な判断をしていただけますよう、強く要望いたします。

カンナビスト運営委員会
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電子メール:info@cannabist.org

【注】
(注1)朝日新聞2001年3月27日付け朝刊記事「大麻 欧州「容認」へ傾斜」
(注2)厚生労働省発薬食第0408034〜43, 45〜52号、第0408033号。
(注3)大阪高裁の大麻事件裁判の公判で、弁護人から検察に対し「麻薬・覚せい剤濫用防止センター」の公表している大麻に関する情報について、実際に大麻の害悪の具体的証明があるのか、出典などが明らかにするよう求めたところ、検察側の答弁は同センターに問い合わせたが回答をもらえなかったので、釈明しないというものでした。
これは「麻薬・覚せい剤濫用防止センター」の公表している大麻の「有害性」が、根拠のない情報だということが法廷の場で明らかになったということを示しています。
平成16年(う)第835号 大麻取締法違反事件 11月24日、大阪高裁公判。
(注4)朝日新聞2005年4月3日付け朝刊記事「大麻事件の20歳被告受験前日に保釈許可」
(注5)日本国憲法「第31条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」「第36条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。」

【カンナビストについて】
 日本の大麻(マリファナ、カンナビス)取締りは、著しい有害性は認められない大麻に対し過剰に厳しい刑罰を科しており、年間3000人以上の市民が逮捕されている状況は公権力による人権侵害であると訴えている非営利の市民運動。
  設 立:1999年7月1日
  会員数:4,602人(2008年9月9日現在)
  ホームページ http://www.cannabist.org/