朝日新聞社説に対する要望書

朝日新聞社説(2005年9月30日付け)の「薬物汚染こそ脅威だ」について、大麻に関する事実誤認の記述があったため、誤りを指摘し、訂正を求める要望書を朝日新聞社宛に送りました。


要 望 書

朝日新聞社
  代表取締役社長 殿
 社説担当者 殿
  広報部 殿

2005年10月11日
カンナビスト運営委員会

■要旨
 朝日新聞社説(2005年9月30日付け)の「薬物汚染こそ脅威だ」について、大麻に関する事実誤認の記述がありますので指摘し、訂正を求めます。

■理由
 「大麻は実際にないものが見えたり、聞こえたりする幻覚をもたらす。使いつづけると妄想が現れ、精神錯乱を引き起こすことがある。」(社説より引用)

 社説の記述のような「実際にないものが見えたり、聞こえたりする幻覚」は大麻では起きません。また「使いつづけると妄想が現れ、精神錯乱を引き起こす」こともありません。これは大麻に関する研究や調査の進んでいる欧米諸国での一般的見解です。
 多くの読者に事実とはいえない不確かな情報を伝えることは公正な報道を求められるマスメディアとしてあってはならないことであり、訂正を求めます。付随して、どのような根拠、資料に基づいて社説を書かれたのか明らかにしていただけますようお願いいたします。

 わたしたちは、いわゆる「薬物汚染」、薬物問題についてそれを放任することを望んでいるわけではありません。それが社会的な問題になっていることを認識し、適切な形で対応がなされるべきであると考えています。そしてその前提として、それぞれの薬物の特性、有害性などを客観的に捉えることが必要ではないかと考えています。
 誤解を招かないようにふれておきますが、わたしたちは、記事の内容の誤りを指摘し訂正を求めるものであり、仮に職務中、大麻を使用することがあったとしたらそれを擁護するものではありません。同様にインターネットを用いた販売行為について擁護するものでもありません。それらは職務中の飲酒と同じように規制さるべきであり、また営利目的の大麻の所持・栽培に関しては一定の規制があってしかるできであると考えています。
 社説の中には何種類かの薬物名が出てきますが「大麻」「MDMA」「覚せい剤」はそれぞれ別個のものです。大麻に関しては、MDMA、覚せい剤のようなレベルの有害性はありません。有害性としては、酒やタバコと比較しても軽微だといわれる程度のものです。一時期、流布されていたような、大麻を用いると、次には他の危険な薬物(例えば「MDMA]や覚せい剤)に移行するようになるという説も科学的な調査により否定されています(注1)。
 今回、自衛隊内で事件が起きたというショッキングな状況によるのでしょうか、社説では事態を公正に理性的に見る視点が欠けていたのではないかと思われます。本当に「薬物汚染」を正すためには、その薬物について科学的で客観的な知識・情報に基づいて対応がなされるべきであり、それらの情報が国民に公開されるべきであると考えます。「薬物汚染」というレッテルを貼るような言葉で、本来、異なった特性、有害性を持った薬物類を一括りにしてしまうような報道の仕方は、問題の解決をかえって遠ざけることになるのではないかと危惧しています。
 わたしたちは「覚せい剤」を有害性のある薬物だと考えていますが、今から24年前に起きた覚せい剤による痛ましい事件を引き合いに出して「薬物がもたらす悲惨な事件は後を絶たない」(社説)と結びつけるのはいささか扇情的に思われます。事実、これまで大麻によって二次犯罪が起きたことは一例もありません。そのことは昨年、厚労省に対して情報公開法に基き行った質問から得た回答からも確かめられています(注2)。

 有害性の軽微な大麻に対して「大麻取締法」は、世界的にも類例のないほど過剰に厳しい刑罰(所持に関して5年以下の懲役、栽培に関して7年以下の懲役)を科しています。G8といわれる国々──日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、ロシアを比較しますと、日本とアメリカを除く6カ国で大麻は事実上、刑事事件の犯罪とは見なされなくなっています(いわゆる「非犯罪化」)。アメリカでも連邦法、州法ともに非営利の個人使用に関して軽犯罪に準じた扱いになっています。また4つの州では州法で「非犯罪化」されています。
 誤解のないように補足しますと、こういった状況は、大麻が社会に蔓延して取締りができなくなったから容認されたというのではなく、それまで取締りの理由になっていたような著しい有害性や弊害がないことが明らかになってきたことにより起きてきたものです。
 一方、日本では、毎年、2000名を超える市民・学生が大麻取締法違反で逮捕され、かなりの期間の拘留を強いられた末、懲役刑を科せられています(執行猶予が付く判決を含めて)。いまの日本の状況は、大麻自体のもたらす有害性による弊害よりも、刑事罰を科す取締りによる弊害の方が深刻な問題になっていると言わざるを得ません。取締りに関連して学業を断念させられる学生、長年、真面目に勤めていた職場を失う市民、さらには自殺に追い込まれる若者も出ています。これらは公権力による人権侵害ではないかとわたしたちは捉えています。
 しかしながらマスメディアの報道をはじめ「薬物汚染」というレッテルを貼られることにより、この問題は事実上、黙殺されています。本当に有害なのか、現実に弊害が起きているのかを理性的な目で検証することなく、「薬物汚染」というイメージで排斥するような風潮は、往年のマッカーシズムを彷彿とさせます。
 このような状況が日本社会でまかり通っている要因として過度に大麻を有害視する誤解や偏見があると認識しています。今回の社説は、そのような誤解や偏見を助長するものであるとわたしたちは受けとめざるを得ません。
 最後に、社説で紹介されている麻薬・覚せい剤防止運動、通称「ダメ。ゼッタイ。」がホームページなどで公表している大麻に関する記述は、多岐にわたり誤っていることが明らかになっています(注3)。

■注
1. 『Marijuana and Medicine --- Assessing the Science Base』(IOM:米国科学アカデミーの付属機関である医学研究所が1999年に発行した大麻の医療使用に関する研究レポート)からの引用(翻訳:カンナビスト運営委員会)
 「思春期から成人期にかけてのドラッグ使用の進行パターンは驚くほど一定している。大麻は最も広く使われている違法ドラッグであることから、ほとんどの人々が最初に関わりを持つ違法ドラッグであることは当然予想できる。他の違法ドラッグ使用者のほとんどが最初に大麻を使用しているという事実も驚くには値しない。実際のところ、ほとんどのドラッグ使用者は大麻に先立ち、(通常は法定年齢に達する前に)アルコールとニコチンに手を出す。
 一般的に他の違法ドラッグの使用を開始する前から使われているという意味では、確かに大麻は「ゲートウェイ」ドラッグである。しかし、通常、未成年者による喫煙やアルコールの使用が大麻の使用に先立つことから、大麻は決して違法薬物使用へとつながる最も一般的な「ゲートウェイ」でもなければ、最初の「ゲートウェイ」でもない。大麻の効果とそれ以降の他の違法ドラッグ乱用との因果関係を示す確かな証拠は存在していない。」

2. 厚生労働省発薬食第0408034〜43, 45〜52号、第0408033号。

3. 「ダメ。ゼッタイ。」がホームページなどで公表している大麻に関する記述が実際に起きているのかを情報開示請求により問い合わせたところ該当するような症例は、事実上、起きていないことが明らかになっています。(注2)と同一資料参照。
 また、2004年11月、大阪高裁の大麻事件裁判の公判で弁護人から検察に対し「麻薬・覚せい剤濫用防止センター」の公表している大麻に関する情報について、実際に大麻の害悪の具体的証明があるのか、出典などが明らかにするよう求めたところ、検察側の答弁は同センターに問い合わせたが回答をもらえなかったので、釈明しないというものでした。このように法廷の場でも「麻薬・覚せい剤濫用防止センター」の公表している大麻の「有害性」が、根拠のない情報だということが明らかになっています。
平成16年(う)第835号 大麻取締法違反事件 11月24日、大阪高裁公判。

■補足
1. 昨年、「にっぽんの安全 薬物汚染、若者に拡大」(朝日新聞2004年9月24日)という記事の中で大麻について誤った記述があることを指摘した要望書を朝日新聞に送りましたが、事実上、無視された状況にあります(この件についての要望書なども参考のため同封したします)。

■質問・回答送付先
 カンナビスト運営委員会
 〒154-0015 東京都世田谷区桜新町2-6-19-101
 TEL/FAX:03-3706-6885

■カンナビストについて
 カンナビストは、科学的に見てアルコールやタバコと比較しても有害とはいえない大麻に対して、現行の大麻取締法に基づく取り締まりや刑事罰、および社会的制裁は不当に重く「人権侵害」であるとの主張に基づき、大麻の個人使用の「非犯罪化」(刑罰の軽減化)をめざし活動している非営利の市民団体です。
 カンナビストは、大麻に対する誤解や社会的偏見を正すことに主眼を置き、インターネットによる情報提供、ニュースレターの発行、定例会の実施、各種イベントへの参加をはじめとする啓蒙活動などを行っています。
 設 立:1999年7月1日 会員数:3,741人(2005年10月1日現在)
 ホームページ http://www.cannabist.org/