辛坊治郎氏(讀賣テレビ)に対する
公開質問とその経緯


辛坊治郎氏は2002年11月11日の「ズームイン!!SUPER」において「辛坊治郎の追撃コラム」コーナーで「大麻は麻薬である」との主張。カンナビストは公開質問状という形で真意を確認することにしました。以下はその経緯です。新しい展開があり次第、随時内容を追加していきます。

●インデックス
  1. 2002年11月11日の「ズームイン!!SUPER」における辛坊治郎氏の発言(書き起こし)
  2. 辛坊治郎氏に対する公開質問状-2002年12月12日-(全文)
  3. マスコミ関係各社に公開質問の内容を送付(2002年12月17日)
  4. 回答はなし。日本テレビ視聴者サービス部へ電話(2003年1月9日, 10日)
  5. カンナビストからの公開質問状(2002年12月12日付)について

1. 2002年11月11日の「ズームイン!!SUPER」における辛坊治郎氏の発言(書き起こし)

辛坊治郎氏の発言―――今日は緊急特集でこういうテーマでございますマリファナは麻薬です。というテーマなんですが、どういうことかといいますと先週金曜日ですね、アメリカの住民投票の話でこういう図をお見せしたところ(ネバダ州マリファナ(合法化))「いや、マリファナは麻薬じゃない」という視聴者の方からお電話をいただきまして、どうもねやっぱり若い人の間で、こういう意識が非常にひろがっていてそれが非常にこういうことの原因になっているのではないかと(マリファナは麻薬じゃない!!→使っても大丈夫!!)使っても大丈夫だと言うことで、いま確かに繁華街に行きますとわりと間単にマリファナが手に入るような状況に日本もなりつつあると、これはやっぱなんとかしなきゃいけないということなんでありますが、確かに厳密に法律用語というのはご覧のように麻薬類に関する法律って言うのは3つ(麻薬及び向精神薬取締法・大麻取締法・覚せい剤取締法)に分かれてまして麻薬及び向精神薬取締法これどちらかっていうといアヘン系統の麻薬ですね、それから大麻取締法それから覚せい剤取締法、マリファナは大麻のひとつですから確かに法律上の条文的には別の言葉になってますが、日本語でいうと全部ひっくるめて麻薬であるのは間違いないところでありまして、ちなみに大麻ってどういうものかというとマリファナ、ガンジャ、ハシシュ、あの精製の度合いとかとったもともと草の麻から作るものですけれど、麻のどの部分を使うかによって名前が違ったりなんかしておりますけれども、大麻、着る服作ります、麻のあそこから作る麻薬でございます。で、まさしく麻薬というのは麻の薬ですから(マリファナ、ガンジャ、ハシシュ/「麻」薬そのもの!!)言葉の意味から語源から見てもマリファナは麻薬そのものであるということでありまして、先ほどの大麻取締法なんですが(大麻取締法違反→最高懲役10年)違反すると懲役10年、最高、という非常に重たい他の麻薬と何ら変わらない非常に重い罪だというのをぜひ覚えておいてください。でね最近こういう議論があるんです。いわゆる大麻系の麻薬をソフトドラッグと呼んで、わりとまぁ依存性が少ないじゃないか、そしてまぁ、けしから作りますアヘン、モルヒネ、ヘロイン、それからコカイン、覚せい剤などと区別してこういうものとは別に法律を作ってもうちょっとゆるく取締りをすべきだという議論が日本でもあるんです。で、一昔前に私もそう考えてた時期もあったんですが、私それから世界をこう見てますとね、やっぱりこのソフトドラッグという大麻が野放しになってる国ではこっちのハードドラッグっていう国の汚染も非常に深刻です。まず大麻からやっぱり入ってより刺激の強いものでこういう麻薬に移行してくって人が世界見てると後をたたないですよ。だからね、今若い人の間に苦情の電話のように「いやマリファナは麻薬じゃないんだ」っていうとんでもない考え違いが蔓延してるのが非常に恐ろしいと思います。ぜひ特に若いみなさん確認してください。マリファナは麻薬、間違いなく麻薬ですんで。この意識をまず持ってください。―――
※ 注:(カッコ)内は説明ボードに出てるものを書き出したもの


2.辛坊治郎氏に対する公開質問状-2002年12月12日-(全文)

讀賣テレビ放送株式会社
報道局情報番組部部長
解説委員 辛坊治郎殿

(写)
日本テレビ放送網株式会社
代表取締役 氏家齊一郎殿
代表取締役 間部耕苹殿
「ズームイン!!SUPER」番組制作担当者殿

辛坊治郎氏に対する公開質問状


 私たちカンナビストは、大麻に対する社会的偏見を正すことを主眼に置き活動している非営利の市民団体です。(会員数1783人、2002年12月11日現在)
 科学的にみて、アルコ−ルやタバコと比較しても大麻は有害とはいえないにもかかわらず、現行の大麻取締法に基づく取締りや刑事罰、および社会的制裁は不当に重く、それは「人権侵害」ともいえる状況を生みだしています。その是正のために私たちカンナビストは大麻の「非犯罪化」を提案しています。
 先日'02年11月11日の「ズームイン!!SUPER」において「辛坊治郎の追撃コラム」コーナーで「大麻は麻薬である」との主張を拝見しましたが、理解できない点が幾つかあり、また私たちの理解と大きく異なる点が見受けられましたことから、このたび公開質問状という形で真意を確認させていただきたいと思います。
 12月27日(金)までにご回答頂けますようお願い致します。
 今回の質問状に対して辛坊氏より頂くご回答を当方で検討の上、新たな質問状を追送させていただく場合があります。今後、対話を積み重ねていくことで相互理解の促進を希望しています。また質問とその回答については回答の有無も含め、私たちのホームページ上で随時公開していきます。

質問1.
「大麻は麻薬である」との発言における、辛坊氏ご自身の「麻薬」の定義について具体的に教えて下さい。またタバコやアルコールなど、向精神作用および身体依存性、精神依存性のある物質との違いはどこにあるとお考えでしょうか。
質問2.
「(大)麻+薬」であるから大麻は麻薬そのものである、と番組で解説されていましたが、麻薬という言葉の語源が大麻であるという信頼できる出典があるのならば、それを示して下さい。

質問3.
「ソフトドラッグという大麻が野放しになってる国では、ハードドラッグの汚染も非常に深刻」「まず大麻から入ってより刺激の強いもの、麻薬へと移行していく人が世界を見ていると後を断たない」と発言されていましたが、具体的にどこの国を指しているのでしょうか?国名を教えて下さい。(複数回答可)
また、より刺激の強いものに移行していく傾向を示す信頼のおけるデータがあれば提示して下さい。

質問4.
大麻の使用が他のより危険なドラッグの使用に行き着くという仮説(=踏み石理論)がありますが、この説以外に、大麻が危険あるいは有害であるとお考えの点はありますか?もしあるのであれば、それはどういった点か具体的に教えて下さい。

質問5.
嗜好品であるタバコやアルコールと比較して、心身や社会に対する有害性がより高いとは科学的に証明されていない大麻の所持や栽培を理由に、刑事事件の犯罪者として扱われて厳罰を科せられたり、また社会的偏見にさらされて会社を解雇されたり、家庭崩壊を招くなど、今後の人生を台無しにしてしまうほどの目にあう人たちが毎年数多く存在しているという事実があります。このような状況がまかり通っていることに理不尽さを感じませんか?この事実を辛坊氏は正当なことだと思いますか?それとも不当なことだと思いますか?

質問6.
大麻をはじめとする一部の物質について、行政側やマスコミが客観的・科学的評価をせずに過剰なまでに危険性ばかりを誇張することにより、特に若者層において行政やマスコミの薬物情報に対する信憑性が揺らいでしまい、薬物問題をかえって複雑化させているという意見があります。このような意見について、どう思われますか。

以上

2002年12月12日
カンナビスト運営委員会
東京都世田谷区桜新町2-6-19-101
http://www.cannabist.org

*なお「ズームイン!!SUPER」ホームページ上で、今回の放送に対する視聴者からの抗議について、番組スタッフから「今回の発言はあくまで辛坊キャスターの個人的意見であり、番組や局の見解とは関係ない」と回答があったのを拝見しましたので、辛坊氏個人に直接、質問させていただいております。



3.マスコミ関係各社に公開質問の内容を送付(2002年12月17日)

2002年12月17日。この間の経緯説明と辛坊治郎氏への公開質問状を、以下のマスコミ関係各社にメールにて送りました。

株式会社朝日新聞社 / 日本経済新聞社 / 毎日新聞社 / 読売新聞社 / 株式会社時事通信社 / 株式会社共同通信社 / TBS 総務部 / TBS ニュースの森 / TBS 筑紫哲也ニュース23 / フジテレビ / テレビ朝日 ニュースステーション / テレビ朝日 スーパーJチャンネル / 噂の真相 / 世界 / 論座 / 創 / 選択 / 放送文化 / AERA / サンデー毎日 / 週刊現代 / 週刊ポスト / 週刊新潮 / 週刊文春 / 週刊朝日 / 週刊金曜日 / (社)日本新聞協会 / ジャーナリスト協会 / マスコミ倫理懇談会全国協議会(日本新聞協会内) / (社)日本民間放送連盟 / 日本弁護士連合会 / 日本民間放送労働組合連合会 / 日本新聞労働組合連合 / (社)アムネスティ・インターナショナル日本



4.回答はなし。日本テレビ視聴者サービス部へ電話(2003年1月9日, 10日)
  • 12/28の回答期限までに辛坊氏および日本テレビから、カンナビストに対して回答や問い合わせは一切ありませんでした。

  • 1/9と1/10に視聴者サービス部へ電話して、辛坊氏本人が今回の件に関して書面での返答をする意思がないということを確認。そこで今回の公開質問状の意図が対話と誤解の解消、実際の報道姿勢の変化であることを説明し、辛坊氏あるいは番組スタッフと実際に会って話をする意思がある事を伝えましたが、多忙を理由に断られました。
    やむを得ず、先に郵送した公開質問状に対して質問の意図などの注釈と説明、意見を書面で郵送するので関係者にご一読頂きたいと依頼。また、今回の件で日本テレビ側の一連の対応があまりに一方的であり、報道に対する視聴者の意見に対してはもっと真摯に耳を傾ける姿勢を求めるという事を伝えました。

5.カンナビストからの公開質問状(2002年12月12日付)について

讀賣テレビ放送株式会社
報道局情報番組部部長
解説委員 辛坊治郎殿

(写)
日本テレビ放送網株式会社
代表取締役 氏家齊一郎殿
代表取締役 間部耕苹殿
「ズームイン!!SUPER」番組制作担当者殿

カンナビストからの公開質問状(2002年12月12日付)について


 先日送付いたしました公開質問状についてですが、まず一切のご回答を頂けないということに対して、大変遺憾に思います。公共性の高い民放TV局の解説委員として、また一人のジャーナリストとして、自らの報道姿勢が人権の侵害を助長していると主張する視聴者の声に対して完全無視というのは、実に情けないことだと思います。2002年は企業や団体のモラル低下が不祥事として表面化した年でしたが、このたびの一連の対応では企業としての日本テレビに対して同種の不信感を抱きました。都合の悪いことや面倒なことは無視すればよい、あるいは決められた方針にただ従っていればよい、といった体質が蔓延する組織は、いずれ社会からの信頼を失うものだと思います。視聴者からの意見にはもっと真摯に対応し、現場の声として報道姿勢に反映される事を望みます。
 私たちは対話を希望しています。日本における大麻問題の現実的な解決を望んでいるからです。大麻に関して私たちと異なる意見をお持ちの方々、あるいは異なる立場の方々と時間をかけて対話することは、今後とも不可欠なことだと考えています。私たちが主張していることは、大麻について好ましく思っている人たちだけを対象にするものではなく、広く日本人全体を対象とするものです。大麻を非犯罪化すべきだという主張には論理的に正当性があり、対話を通じていずれ社会からの理解を得られると考えています。
 今回、残念ながら対話の機会を得ることはできませんでしたが、先日送付した公開質問について説明と私たちの意見を述べたいと思います。ご一読のうえ、一考をお願い致します。

 

質問1.
「大麻は麻薬である」との発言における、辛坊氏ご自身の「麻薬」の定義について具体的に教えて下さい。またタバコやアル
コールなど、向精神作用および身体依存性、精神依存性のある物質との違いはどこにあるとお考えでしょうか。

 昨年11月11日の番組では「大麻は麻薬である」と何度も主張されていましたが、麻薬だからどうなのだ、という点について明確に述べていません。麻薬である大麻が有害だから使用してはいけません、というのであれば主張は明快なのですが、あの発言では辛坊氏の大麻に対する意見も、麻薬に対する意見もよく分かりません。なぜなら、そもそも麻薬とは何であるかという定義が不明瞭だからです。
例えばタバコやアルコールなどを麻薬であると定義するならば、大麻も麻薬であるという主張に異存はありません。麻薬であっても適正なルールと管理の下で合法的に嗜好品として楽しんだり、医療に応用したりすることができるということだと思います。
 大麻は麻薬ではないとする意見は、@大麻が心身や社会に及ぼす影響が比較的軽微であり、犯罪として厳しく取り締まる必要のないものだから、例えば覚せい剤やヘロイン、コカインといったいわゆるハードドラッグ=麻薬とは切り離して別の扱いをするべきだというもの、A大麻に対する一般の誤解と偏見を払拭する目的で「麻薬」という言葉の持つネガティブなイメージから大麻を切り離そうとするもの、であると考えます。辛坊氏の発言では「使っても大丈夫」とだけ説明されていましたが、不正確だと思います。
 大麻について「有害である、危険である」とする従来の主張は、科学的な根拠に乏しいものであり、説得力がありません。このため今回の辛坊氏の発言は「麻薬」という言葉の持つネガティブなイメージだけを都合よく利用しようとしているかの様な印象を持ちました。
 また今回の主張全体を通して辛坊氏は、大麻が麻薬か否かという問題について主として法律上の扱いを問題にしておられたように感じました。たしかに法律で禁止されているから使用してはいけないというのは事実ですが、その法律が果たして妥当なのかどうかという議論とは切り離して考えるべきだと思います。

 

質問2.
「(大)麻+薬」であるから大麻は麻薬そのものである、と番組で解説されていましたが、麻薬という言葉の語源が大麻であるという信頼できる出典があるのならば、それを示して下さい。

 麻薬という言葉の語源は、じつは定かではありません。いくつかの説がありますが「麻酔薬」から派生した言葉ではないかとする説(大辞林など)が一般的のようです。日本で「麻薬」という言葉がはじめて使用されたのは、1930年の麻薬取締規則であるとされています。
この質問を通じて述べたかったことは、出典も示すことができないような適当な言葉遊びで、問題を本質からそらさないで頂きたいということです。

 

質問3.
「ソフトドラッグという大麻が野放しになってる国では、ハードドラッグの汚染も非常に深刻」「まず大麻から入ってより刺激の強いもの、麻薬へと移行していく人が世界を見ていると後を断たない」と発言されていましたが、具体的にどこの国を指しているのでしょうか?国名を教えて下さい。(複数回答可)
また、より刺激の強いものに移行していく傾向を示す信頼のおけるデータがあれば提示して下さい。

 まず「大麻が野放しになっている国」との表現がよく分かりません。薬物政策の一環としてソフトドラッグとハードドラッグを分離し、限られた国家のリソースをより危害の深刻なハードドラッグ対策に集中させているオランダを例にあげると、大麻の使用は違法であるが犯罪として取り締まらないという「非犯罪化」政策を実施しており、また大麻の販売や使用に際して様々な規制が設けられているなど、「野放し」と表現するのは不適切です。また米国には州法により大麻を非犯罪化している州が現在12州ありますが、連邦政府は独自に厳しい取締りと検挙、弾圧を繰り返しており(2001年の逮捕者数は約724,000人)、連邦議会で州の自治権の問題として取り上げられるなど、これも「野放し」とは呼べない状態です。
 その上で、例えばオランダにおいてはコカイン、ヘロイン、アンフェタミンなどのハードドラッグ使用者数は人口1,000人あたり2.6人(2002年EMCDDAアニュアルリポート)であり、EU諸国では最低レベルです。また2000年オックスフォード出版発行「The Science of Marijuana (Leslie Liversen, Solomon H. Snyder共著)」ではヘロインを例にとって米国とオランダを比較していますが、1995年の人口1,000人あたりヘロイン依存者の数は米国4.3人に対してオランダ1.6人でした。
 参考までに大麻の非犯罪化政策導入後の大麻そのものの使用者数の増減についてですが、1997年に発行された「Marijuana Myths Marijuana Facts - a review of the scientific evidence (Lynn Zimmer, John P. Morgan共著)」では、「オランダのマリファナ政策」の中で統計データを元に米国とオランダの大麻使用者比率を各年齢層別に比較しています。結論として米国における大麻の使用率はオランダと同程度であり、若年層に限ってはむしろ米国の方が高い使用率を示しています(1994年統計による)。
 なお、ここでは歴史的、伝統的に大麻喫煙の習慣が根付いているインド(=大麻は法律上、非合法)などのケースを取り上げるのは、薬物政策におけるハードドラッグとソフトドラッグの分離による成果について説明をする際の例としては不適切であると考えます。
 大麻の非犯罪化政策を導入した国や地域において、大麻以外のハードドラッグ使用者数が大麻の非犯罪化以前と比較して増加したということを示す信頼のおける調査報告は発表されていません。むしろ、ハードドラッグと大麻を分離することでハードドラッグの蔓延抑止に有効だとする調査結果が数多く発表されています。

 

質問4.
大麻の使用が他のより危険なドラッグの使用に行き着くという仮説(=踏み石理論)がありますが、この説以外に、大麻が危険あるいは有害であるとお考えの点はありますか?もしあるのであれば、それはどういった点か具体的に教えて下さい。

 まず踏み石理論についてですが、これは1930年代米国禁酒法時代に「飲酒がきっかけとなって、より強力な麻薬の使用が誘発される」として禁酒法を正当化するために主張されたものが、後になってそのまま大麻に転用されたものであるとされています。現在までに数多くの科学的実験や調査論文などでその科学的根拠は否定されていますが、最近のレポートで有名なものとしては米国連邦政府の麻薬取締政策局からの依頼により米国科学アカデミーの付属機関である医学研究所(IOM)が1999年に発表した「IOMレポート」、あるいはカナダ議会上院の規制薬物対策特別委員会が2002年に発表した報告書「Cannabis: Our Position for a Canadian Public Policy」などもあります。なお、わが国における覚せい剤検挙者数と大麻検挙者数の推移を比較すると、両者にほとんど関連性が見られないことがご理解いただけると思います。 
大麻の使用によって発生し得る危険あるいは害ですが、喫煙する際の煙に含まれる一酸化炭素その他の発ガン性物質が挙げられます。大麻の煙に含まれる発ガン性物質は、同量のタバコの煙と比較して1.5倍ほど多いということが、1970年代以降の多くの実験結果でわかっています。ただし、現実にはタバコと大麻では一般的な摂取量や頻度に大きな差があります。仮にタバコを一日に20本程度たしなむ人と比較すると、大麻の一般的な使用量はその数十分の1から数百分の1であるため、実際に摂取する有害物質の総量はタバコのほうが圧倒的に多いとされています。大麻は経口摂取により消化器官から有効成分(THC)を吸収することも可能で、この場合は煙に含まれる有害物質の心配は不要です。さらに、ベーポライザー(=気化器)によって発火点以下の温度で大麻を熱することでTHCを気化して肺から摂取する場合も、煙による健康被害を防ぐことが可能です。大麻の有効成分であるTHCは、人体に対する安全性が非常に高い物質です。
海外では自動車の運転などに際して大麻は摂取すべきではないとするのが一般的な意見のようですが、自動車事故と大麻との関連性については近年、アルコールや一部の風邪薬ほど強く運転に支障をきたさないとする研究結果が主流です。
 そのほかに、現在わが国の厚生労働省が主張しているような危害、たとえば大麻精神病や無動機症候群、脈拍の増加による脳内毛細血管の損傷や心筋梗塞のリスク増加、回復しない(=一過性のものではない)記憶力や思考力の低下、凶暴性や攻撃性の増加などといったものは、科学的根拠に乏しくその信憑性は疑わしいと考えます。たとえば、主に1920から50年代にかけて米国で行われた反大麻キャンペーンの際に「捏造」された(⇒すでに科学的根拠が否定されている)実験結果を客観的、科学的に検証することなくそのまま採用しているケース、明らかに非科学的な条件で行われた実験をもとにしているケース、さらには出典や出所が全く示されていないケース、といった程度のものです。

 

質問5.
嗜好品であるタバコやアルコールと比較して、心身や社会に対する有害性がより高いとは科学的に証明されていない大麻の所持や栽培を理由に、刑事事件の犯罪者として扱われて厳罰を科せられたり、また社会的偏見にさらされて会社を解雇されたり、家庭崩壊を招くなど、今後の人生を台無しにしてしまうほどの目にあう人たちが毎年数多く存在しているという事実があります。このような状況がまかり通っていることに理不尽さを感じませんか?この事実を辛坊氏は正当なことだと思いますか?それとも不当なことだと思いますか?
質問6.
大麻をはじめとする一部の物質について、行政側やマスコミが客観的・科学的評価をせずに過剰なまでに危険性ばかりを誇張することにより、特に若者層において行政やマスコミの薬物情報に対する信憑性が揺らいでしまい、薬物問題をかえって複雑化させているという意見があります。このような意見について、どう思われますか。

 これら2つの質問を通じて辛坊氏に伺いたかったのは、健全な民主主義社会においてジャーナリズムが果たすべき役割についてどのように考えておられるかということです。大麻の非犯罪化が世界的な流れとなり、ようやくわが国でも大麻規制の是否に関する議論が発生している今日において、一方的な報道で世論を誘導し、旧来の規制維持を正当化するのがジャーナリズムの役割であるとは到底考えられません。
 辛坊氏にはご自身の報道姿勢が、大麻取締法で検挙された人たちに対する「公権力による人権侵害」を正当化しており、偏見や差別を助長する恐れがあるということ、さらには多発性硬化症など医療目的での大麻使用の可能性を閉ざし、患者の生存権を脅かすことにもつながるということをご理解いただきたいと思います。また、法律の妥当性についての自由な意見を「とんでもない思い違い」などとして排除しようとする姿勢は、一方的な意見の押し付けに過ぎず、本来ジャーナリズムにあるべき公正さを大きく欠いているのではありませんか?
 質問5.について、確かに法治国家において法律というルールに違反した事実に対して、何らかの罰則を科するべきであるという主張はもっともです。ただその罰則として、刑事犯として扱うことは大麻の場合、果たして本当に妥当なのでしょうか?麻薬中毒などと差別、偏見にさらされたり、人生を大きく傷つけられたりするようなことは、正当なことだといえるのでしょうか?今日の日本において、大多数の国民の意見はいまだ大麻に否定的あるいは無関心であると想像しますが、それを理由に少数派の人権をないがしろにして、意見を押しつぶそうとすることが辛坊氏にとっての「正義」なのでしょうか。
質問6.で述べた問題は世界各国で同様に指摘されていますが、薬物の危険性を過剰に強調することで人々を薬物から遠ざけようとする手法はあまり効果がなく、むしろ情報が信頼を失うことや誤解が発生することなどによる弊害の方がはるかに大きいという意見が多く見られます。正確な情報を偏りなく伝えるというのはジャーナリズムの大原則だと思います。マスコミには自発的に政府の広報のような役割を買って出るのではなく、まず自らの発言に社会的責任を負うという姿勢が求められていると思います。今回の件では、辛坊氏および日本テレビの一連の対応に無責任さを特に強く感じました。

 辛坊氏はジャーナリストとして、この大麻問題についてもっと真面目に考えて欲しいと思います。そして意見を一方的に押し付けるのではなく、さまざまな意見や情報をできるだけ幅広く、かつ正確に視聴者に提供することで社会に対して問題を提起し、自由で活発な議論を通じて視聴者が各々、自分自身の判断を下せるような報道を心がけていただきたいと思います。

以上

2003年1月31日
カンナビスト運営委員会
東京都世田谷区桜新町2-6-19-101
http://www.cannabist.org