大麻問題とは、真に自由で暮らしやすい
日本を創ることである
『CannabisNews』創刊号(1999年7月1日発行)より


大麻問題とは、真に自由で暮らしやすい日本を創ることである
∽∽ マリファナと現代日本の人権侵害 ∽∽
 いまの日本は長期不況といわれながらも、経済規模は世界第二の国家であり、憲法は主権在民を掲げている「先進国」である。この国に生まれた人間なら等しく人権が保証され、言論や思想信条、信仰の自由が守られている。いま騒がれているダイオキシンによる汚染問題、あるいは原発の安全性問題なども、それを通して人々の生活・自然環境を守ることがいかに大切かが認識されるようになっている。さらに高齢化社会を迎えての老人福祉の推進、あるいは女性の社会的地位の改善など、この国は、人々がより暮らしやすい社会になるように進んでいるはずだ。

 ところがいまだに中世の暗黒時代のような野蛮な法律があり、毎年2000人前後の人々が逮捕され、手錠をはめられて、獄につながれるという現実がある。それは「大麻取締法」という今から半世紀前、日本が占領下の時代に作られた法律(1948年制定)だ。
 6月17日、東京地裁である大麻取締法違反事件の判決があった。この事件は98年11月、都内の道路を車で通行中のTさんが、パトカーに停止を命じられ、車内に乾燥大麻約9.7グラムがあったため現行犯逮捕されたという事件であった(その後、自宅から乾燥大麻約5.5グラムが押収された)。Tさんは、逮捕状況が適法でなかったこと、及び大麻は悪いものではないといった信念に基づき、勾留されたまま裁判で争ったが、東京地裁の判決は懲役10カ月の実刑であった(7カ月あまり勾留され、そのうちの120日が刑期に算入された)。結局、Tさんは15グラムほどの大麻を持っていたというだけで、1年以上拘束されることになったのだ。それまで普通の市民生活をしてきたTさんが、誰かに危害を加えたとか、物を盗んだというわけでもないのに、何故、1年以上も自由を奪われなければならないのだろうか?
 非常に奇妙なことだが、マスコミも含めてこれまで誰も、大麻(マリファナ)取締りの理不尽さ、不当性には声を上げてこなかった。
 「マリファナ」という言葉をテレビや新聞・雑誌で耳にするときは、常に「薬物犯罪事件」といったネガティブな報道がなされ続けてきた。そのためマリファナは、タブー視され、怖いもの・危ないものといったイメージがつきまとっているが、実は大昔から日本中どこにでも生えていた植物、大麻草のことである。マリファナ、大麻、麻、ヘンプ、カンナビスなどと、いろいろな名前で呼ばれるているが、みんな同じ植物だ。大麻は、たんなる草なのだ。
 大麻の茎の繊維は縄文時代から糸や紐、縄として使われてきた。近世まで衣服は大麻で作られてきた。その種は七味唐辛子やいなり寿司にも入っている。最近、欧米では大麻から紙や建材、オイル、医薬が作れることが注目され、有用な植物として見直されている。そんな草(大麻)を持っていたというだけで逮捕され、新聞などでは「犯罪者」として報じられ、仕事を失ってしまうこともある。私たちは、大麻が好きだったというだけで、何故、こんなに酷い弾圧を受け、社会的に制裁を受けなければならないのか納得できない。

 

大麻=マリファナとは何か

 大麻の葉、特に雌花の部分には人間の心に作用する成分が含まれている。その活性成分はTHC(テトラヒドロカナビノール)とその類縁物質であるが、アルカロイドには属しておらず毒性は低い。
 大麻を吸うと一種の酩酊感が生まれる。くつろいだ、いい気分になれる。心が楽しく、そして穏やかに、平和的になる。別の言い方をすれば、幸せな気持ちになれるということである。素朴な疑問だが、どうして幸せな気持ちになることが悪いことなのだろうか?
 大麻には、麻薬(ヘロイン、コカインなど)や覚醒剤(メタンフェタミンなど)のような身体的依存性や耐性上昇はない。精神的依存性は認められるが、それも低く、コーヒーやお茶が習慣になっているのと同じようなレベルの問題である。結局、これまでいわれてきたほど大麻は有害なものではないことが海外の公的研究では明らかになっている(1)。
 こういった海外の進んだ研究を調べていくと、大麻はアルコールやタバコよりも人体に与える有害性は低いということが分かってくる。事実、オランダなどでは大麻について個人の自己使用については認めるようになっている。
またWHO(世界保健機構)やアメリカ政府の研究では、マリファナの使用が他の「麻薬」や「覚醒剤」に結びつくという大麻取締り側の主張する説も否定されている(2)。
 さらにアルコールや覚醒剤とは作用が異なるので、マリファナの服用が原因で他人に迷惑をかけたり、危害を与えたような事故・事件は起きていない。この30年間、日本でマリファナの所持や栽培により逮捕された人は何万人にも達するが、マリファナを吸ったことによって、喧嘩をしたり反社会的な行為を行ったという事件は全くのゼロである。
現在、日本では「大麻取締法」ではマリファナ、つまり大麻を栽培した者に対し7年以下の懲役刑、持っていただけで5年以下の懲役刑という非常に重い刑事罰が科せられている。こんなに過酷な刑罰を受けるのは野蛮な人権侵害ではないだろうか。
「大麻取締法」は、条文の冒頭で目的規定が明記されていない、立法の趣旨が不明確な法律である。法律専門家の解釈では、この法律の目的は「大麻の生産・流通過程について必要な薬事行政上の取締りを行なうとともに、大麻が濫用されることによって生ずる保健衛生上の危険を防止し、もって公共の福祉の増進を図ろうとするものであると解される」ということになっている(3)。
 仮に、この目的を認めるとしても、普通の社会生活を送りながら、大麻を自己使用のために少量を栽培、あるいは所持していた国民をどうして逮捕したり、懲役刑にしなければならないのか全く理解できない。
 「保険衛生上の危険を防止」し、「公共の福祉の増進を図ろうとする」というように本来は人間の生活を守ることが目的の法律なのに、人間を犯罪者に仕立て上げるための法律に変質してしまっているように思える。
 大麻事件は、被害者のいない犯罪だとよく言われる。大麻を摂取したとしても、その当人は心身の健康上、何も困るようなことは起きない、また他の誰かがそれにより何らかの被害を受けることもない。大麻の唯一の「危険性」は、それが法的に規制されているため、所持、あるいは栽培すると逮捕されてしまうことにある。
 私たちは、こんな理不尽なことがまかり通っているのを是正していきたいと考える。
 マリファナが「危険なドラッグ」であるとする社会的偏見、それを流布させているマスコミの報道、そして民主的な社会になじまない人権侵害の「大麻取締法」、これらを是正していくことが急務になっている。
 人権先進国といわれるヨーロッパの国々の現状を見ると、すでに一部の国ではマリファナの少量・個人使用について刑罰の対象から外されている。また規制が行われている国でも、その扱いは日本に比べ遥かに緩いのが実情である。
 6月1日、衆議院で強行採決された「通信傍受法」、いわゆる「盗聴法」では薬物の単純所持の容疑でも警察が電話を盗聴できることになっている。政府は、この法律は組織犯罪摘発のために必要だと説明しているが、薬物の中には大麻も含まれている。現在、組織犯罪が大麻を扱っているとすれば、その理由は「大麻取締法」により大麻が禁制品になっているので、それを売れば利益が大きいためである。このような法律と薬物の関係は、アメリカで1930年代、禁酒法の時代にはアルコールの密売を犯罪組織が手がけていたという実例が示すように、禁止されているが故に犯罪組織が扱うようになるのである。もし大麻の個人使用が認められるようになれば、誰でも手に入るようになり犯罪組織は利益をもたらさなくなった大麻を扱わなくなる。
 大麻を名目に盗聴を行うことは、国民のプライバシーを侵害する行為である。国家が国民の生活まで監視するという民主主義と逆行する法律であり、私たちは、このような「盗聴法」に反対する。

 

私たちの提案 ――大麻問題の「非犯罪化」

 私たちは、大麻を現在のように犯罪として扱うのではなく、犯罪とは切り離して考える、いわゆる「非犯罪化」を提案する。その概要は以下のようなものだが、これらの内容は絶対的・教条的なものではなく、今後、さらに議論を深め、日本社会の中で大麻が、安全に無理なく受容されるような提案になるようにしていきたい。
 マスコミに対しては、まず大麻についての正確な知識を知るように努めてほしいと願う。そして、覚醒剤やシンナー、他の麻薬類に関係する「薬物犯罪事件」とは切り離して考えてもらいたい。特にマスコミの報道姿勢は国民に与える影響力が大きいだけに、大麻事件の報道に関しては公正で、科学的な立場をとるように望んでいる。
 行政(警察・厚生省)当局は、個人が少量の大麻を栽培したり、持っていた場合に限り(販売目的でない自己使用のケースについて)、取締りを緩和すべきである。少量というのが、どれぐらいの量までのことを指すのかについては、十分、議論されなければならないが、オランダのケースでいえば乾燥大麻30グラム以内とされている。
 立法に携わる政党・政治家の方々には、現行の「大麻取締法」の改定を要望する。その一案として個人の自己使用に限り、少量の大麻の栽培・所持が認められるように法律を改定することを提案したい。また現在の「大麻取締法」は、実質犯の場合、懲役刑だけしかないという重い刑罰を科す法律だが、1963年(昭和38年)に同法が改定されるまでは罰金刑も存在していた。このように「大麻取締法」がより厳しい法律に改悪されたことの背景には、1960年代前半、大麻は危険なドラッグだというような偏見が日本で台頭しはじめたということが指摘できる。1999年現在、大麻は以前、考えられていたほどには人体に有害なものではないということが明らかになってきたが、この法律によって理不尽に重い刑罰を受けている国民がいることを考えると、立法政策として「大麻取締法」をより緩やかな法律に改定することが急務になっているのではないだろうか。付言すると「大麻取締法」について罰金刑の復活も改定案の中に含まれるべきだと考える。
 私たちは、大麻の「非犯罪化」が日本で実現できるか、否かをは、ここで述べているような新たな社会的合意が国民レベルで築けるか、否かにかかっていると考える。そのことは、単に大麻問題だけにとどまらず、日本社会が真に自由で、暮らしやすい社会になることでもある。

(麻生 結)


(1) 『マリファナと薬物乱用に関する全国委員会公式レポート(シエイファー報告)』(1972)
『マリファナと健康(アメリカ連邦議会に対する保健・教育・福祉の第五回報告書)』(1976)
『IOMレポート』アメリカ科学アカデミーの付属機関「医学研究所」の調査(1999)。詳しくは本誌の記事を参照
(2) 『カンナビスの使用』国連・世界保健機関「テクニカル・レポート・シリーズ」478号(1971)
(3) 『注釈特別刑法第八巻』309ページ/伊藤栄樹、小野慶二、荘子邦雄編/立花書房